オミクロン株の爆発的な感染急拡大が止まらない。
2022年1月7日、全国の新規感染者は6000人を突破、先週金曜日の12倍というすさまじさだ。
岸田文雄政権は同日、沖縄・広島・山口の3県に1月9日からまん延防止等重点措置を発令することを決めた。
一方、米連邦準備制度理事会(FRB)の予想以上に「タカ派姿勢」が明らかになり、米国株式市場は2日連続で大幅に下落、あおりを受けて日本市場も下落。年初の大発会の大幅高を吹き飛ばしてしまった。
オミクロン株と米国経済後退のダブルパンチを受け、日本経済はどこに向かうのか。
オミクロン株は新型コロナとは別の病気?
「オミクロン株は重症化するリスクが低い」と甘く見る風潮が世界的に広がっているが、「オミクロン株は風邪ではない」と過小評価を戒める声明を、2022年1月7日、世界保健機関(WHO)が発表した。
WHO新型コロナウイルス対策技術責任者のマリア・バンケルコフ氏がオンラインで記者会見を開き、
「オミクロン株は、それほど重症にならないことがわかっていますが、『軽症』ということではありません」
として、オミクロン株は普通の風邪ではないこと、ワクチン未接種者からは重症者も死者も出ていることを踏まえて警鐘を鳴らしたのだった。
オミクロン株の「謎」について、日本の医療現場でも戸惑いが広がっていることを、朝日新聞(1月7日付)「『デルタ株とは別の病気』『医療従事者の欠勤増加』オミクロン、沖縄の専門家会議」が伝えている。
オミクロン株の感染者が急増している沖縄県で1月5日、専門家会議が開かれた。同紙によると、
「座長の藤田次郎・琉球大教授は、症例が少なく全体像はまだわからないとした上で、琉球大病院で受け入れたオミクロン株感染者の症状について『感覚としては(デルタ株と)別の病気。インフルエンザに近い』と見方を示した」
という。専門家会議では、オミクロン株感染者を診た医師らから「今回はいまのところ肺炎がない。どう考えたらいいのか」などの発言があったという。
この沖縄県での専門家会議では、集中治療や人工呼吸が必要な重症例がないことも報告された。かといって、決して侮ってはいい病気ではなく、感染のスピードの速さから医療機関に甚大な影響を与えることも指摘されたのだ。
「藤田座長は、『これから重症者が出てくるかもしれない』としつつ『国の基準はデルタ株を中心に作られているが、臨床医の感覚では別の病気。インフルエンザなら薬を飲めば熱も下がって数日で職場復帰できるが、コロナは休む期間が長い。このため、社会インフラに与える影響が大きい』と話した」
と、朝日新聞は結んでいる。
ワクチン・検査パッケージとGo To トラベルは頓挫か?
欧米では、オミクロン株の感染が急拡大をしても経済活動を規制するところは少ない。
報道によると、1日の新規感染者が100万人を超えた米国、30万人規模のフランス、20万人を超えたイギリスでは、とくに外出制限や飲食店などの営業短縮などの措置は行われていない。
ただ、約6万人のドイツではクラブやディスコの営業を禁止、約14万人のイタリアでも飲食店や映画館の利用者をワクチン接種者に限る、などの措置を行っているくらいだ。
だが、日本ではどうか。早くも岸田文雄政権は1月7日に沖縄、山口、広島の3県にまん延防止等重点措置を発令することを決めた。適用されると、知事は飲食店の営業時間を午後8時までにしたり、酒類の提供の自粛を要請したりすることができる。
東京、大阪などでも感染は急拡大しており、いずれ、首都圏や近畿圏にまん延防止等重点措置、あるいは緊急事態宣言が発令される事態になる可能性がある。自粛が再び広がれば、経済活動の停滞は避けられない。
しかも、早くも経済活動再開の決め手が、次々と頓挫しつつある。感染拡大時でも行動制限を緩和する決め手の1つだった「ワクチン・検査パッケージ制度」にも赤信号が灯り始めた。
「ワクチン・検査パッケージ制度」とは、感染対策と社会経済活動の両立を図る手段として、昨年(2021年)11月に策定された。緊急事態宣言やまん延防止等措置が発令されているなかでも、「ワクチン接種証明」や「検査結果の陰性確認」があれば、「飲食」「イベント」「移動」の行動制限が緩和される仕組みだ。
これについて、全国知事会のオンライン会合(1月6日)では、もともとデルタ株を想定してつくられた制度であり、感染力がより強力なオミクロン株の登場によって意味がなくなったと、知事たちの反発が相次いだ。
日本経済新聞(1月7日付)「対オミクロン抜本策必須 制限緩和の前提崩れ」によると、会合の中で、黒岩祐治神奈川県知事は「パッケージ制度はオミクロン株の特性を踏まえ、自治体の判断ではなく国が制度の見直しを行うべきだ」と述べ、湯崎英彦広島県知事もパッケージについて「ほとんど意味をなさない」と話したという。
もう1つ、観光産業支援の目玉として期待が高まっていた「Go To トラベル」の再開も見送られることになった。1月7日、斉藤鉄夫国土交通相が記者会見で明らかにした。斉藤氏は、
「感染拡大が急速に進むことが想定される状況にある。トラベル事業の再開は感染状況が落ち着いていることが大前提だ」
と述べたのだった。
国土交通省は1月末からの再開を目指し、準備を進めていたが白紙に戻ったかたちだ。
欧米と違い、自粛が避けられない国民性
こうした事態をエコノミストたちはどう見ているのか。
農林中金総合研究所主席研究員の南武志氏は、朝日新聞(1月7日付)の取材に、日本は感染者が増えると自粛の動きが出るとしたうえで、「高齢者が百貨店での買い物や旅行を控えることは感染防止にはいいが、経済は停滞する」と答えている。日本人の国民性からしたら、自粛や行動制限は避けられない、というわけだ。
「1月中にも全国ベースで緊急事態宣言が再発令される事態となってもおかしくない」と警戒を呼び掛けるのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。「感染第6波で国内景気の持ち直しは早くも一服へ」(1月6日付)のコラムの中で、こう指摘する。
「国内での消費活動は、新規感染リスクの低下を映して昨年9月から持ち直しに転じ、全国ベースの緊急事態宣言の解除を受けて10月からは持ち直し傾向をさらに強めた。しかし、コロナ感染の『第6波』を受けて、年初からは再び個人消費は抑制傾向を強めるだろう。個人消費の順調な持ち直しは、短期間でいったん途切れることになる」
さらに、新型コロナウイルス問題は、当初に考えられたよりもかなり長期化するリスクが高まっている。経済への悪影響も長引くことになる。――こんな厳しい言葉も並んでいるのだ。
FRBの予想以上の「タカ派姿勢」が最大のリスク?
新型コロナの問題もさることながら、木内氏が日本経済にとってさらに大きなリスクになると指摘するのが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め策の動向だ。
1月5日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録要旨の中で、FRBは市場の予想以上に「タカ派姿勢」(金融引き締め路線)を鮮明にしたのだった。
実際、FRBが利上げや保有資産の縮小を前倒しで進めると警戒する見方が一気に広がり、米国株式市場は1月5日、6日(現地時間)と連続して急落した。金融引き締めによって、株式市場に流入する資金が先細りするとの懸念が広がったからだ。とくに、米国経済を牽引してきハイテク株を中心に売られたことが特徴だ。
木内氏はこう指摘している。
「米国での物価高騰が予想外に長引き、FRBが利上げをさらに加速していけば、急激な金融引き締めが経済を悪化させ、また不均衡を抱えてきた金融市場に大きな調整をもたらす可能性が出てくるだろう。それが2022年から2023年にかけての、世界経済、日本経済の最大のリスクとなるのではないか」
こうしたFRBの市場の想定を上回る「金融引き締め路線」の影響について、「今後ハイテク株が重しになる可能性がある」と指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏のレポート「米ハイテク株急落と今後のポイント」(1月6日付)の中で、1月5日の米ニューヨーク株式市場で、主力ハイテク株で構成されるNASDAQ100が前日比3.1%安と大幅安となったが、その理由をこう説明する。
「(FRBが)市場の想定以上に金融引き締めに積極的なタカ派姿勢が示されたことで、『米長期金利の上昇・期待インフレ率の低下→米実質金利が上昇→バリュエーション面で相対的に割高感のあるハイテク株売り』という流れとなりました。NASDAQ100の12か月先予想PER(株価収益率)と米実質金利は連動する傾向が強かっただけに、同金利の上昇が今後も継続するようだと、ハイテク株の重しになる可能性があります」
そして、米実質金利とNASDAQ100の12か月先予想PERの相関図を示している=図表参照。
これを見ると、米実質金利と12か月先予想PERが連動していることがわかり、FRBの利上げによって、ハイテク株の下落が始まることは容易に想像がつく。
しかし、石黒氏はこうも指摘する。
「焦点となるのが、今後本格化する米主要企業の2021年Q4(10-12月期)決算発表です。情報技術や通信サービスなどハイテク業種の決算内容は、事前予想に対し、実績値が上振れる傾向が強く、今後の決算内容も同様の展開となると、業績面での見直し余地が出てくると想定されます」
短期的にはFRBの金融政策や、金利動向に左右されやすい展開が続きそうだが、ハイテク業種の利益成長期待は高いので、冷静に下値を拾うことも重要だという。
(福田和郎)