「企業が成功するためには社会が健全でなければならない」
企業の社会的責任(CSR)についても論じている。企業と社会は互いに必要とし合っている、という考え方が基本にある。
「企業が成功するためには社会が健全でなければならない。教育や医療、機会均等は、生産性の高い労働力を確保するための前提である。(中略)コミュニティを犠牲にして、おのれの利益だけを追求するような企業にとって、成功は幻想にすぎず、たとえ実現しても一時的である」
そのうえで、自社の事業と関連性が高い社会問題を選択すればいい、としている。
本書は理論と実例が、じつにうまく組み合わせられた記述からなる。図表も豊富でわかりやすい。企業の競争がより豊かでよい社会をつくるという哲学が根底にある。「競争」とか「戦略」という言葉の響きに惑わされず、学ぶべき内容に満ちている。
ちなみに、一橋大学が開設した大学院大学、国際企業戦略科(ICS)は、「ポーター賞」を設けているという。これまで武田薬品工業、シマノ、ファーストリテイリング、日本電産、ぐるなび、星野リゾート、オープンハウスなど60社以上が受賞しているそうだ。
いずれもポーター理論を実践し、優れた収益性を維持している。
(渡辺淳悦)
「[新版]競争戦略論Ⅰ」
マイケル E・ポーター著、竹内弘高監訳著
ダイヤモンド社
2750円(税込)