漫画配信サイト「めちゃコミック」を運営し、情報システム構築なども手がけるインフォコムの株価(終値)が2021年12月29日、一時、前日比218円(10.9%)高の2211円まで上昇した。22年1月5日の終値は2086円だった。
前日の28日に香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが関東財務局に提出した大量保有報告書で、インフォコム株を5.65%保有していることが判明し、株主還元策の強化などを期待する思惑買いが集まった。2021年の株価は年初から長期低落傾向にあり、12月1日に年初来安値(1879円)をつけたが、反転のきっかけとなる可能性もある。
漫画配信ビジネスの将来性は?
まずはインフォコムという会社の概要を確認しておこう。もともとは大手商社の日商岩井(現双日)が1983年に設立した100%出資子会社「日商岩井コンピュータシステムズ」に源を発する。2001年に繊維大手、帝人の100%出資子会社「帝人システムテクノロジー」と合併し、現在は帝人が55.14%保有する子会社として東証1部に上場している。
事業の柱は、法人や官公庁、医療機関を顧客として情報システム構築を支援する「ITサービス」と、一般消費者向け電子漫画事業の「ネットビジネス」の2つ。近年はネットビジネスの収益が伸びており、売上高は祖業とも言えるITサービスの2倍程度、営業利益では4倍前後となっている。
電子漫画は海賊版に繰り返し悩まされ、競争が激化している分野だが、成長力は高いとみられている。めちゃコミックの主な読者は、かつての少女漫画も知るスマートフォンと親和性の高い30代女性で、デジタルコンテンツへの課金にあまり抵抗のない世代だ。
2021年9月中間連結決算は、売上高が前年同期比2.3%減の324億円、営業利益が1.6%増の49億円、最終利益が2.0%増の34億円。22年3月期の業績予想は、中間決算発表時(10月27日)に売上高を70億円下方修正し、前期比2.9%増の700億円。それ以外は据え置きで営業利益は1.7%増の110億円、最終利益は16.3%増の73億円を見込んでいる。
売上高の下方修正の理由は、主力の漫画配信サービスで前年の外出自粛による特需がはく落する一方、下半期にはなくなる想定をしていた海賊版サイトのマイナスの影響が続いているためとしている。ただ、漫画配信ビジネスは将来性があるとの見方が多い。
香港投資ファンドの衝撃の報告書
海賊版サイトは2018年4月の「漫画村」閉鎖後も次々に現れ、いたちごっこの状況にあるが、インフォコムの電子漫画事業は18年3月期(212億円)から3年後の21年3月期に440億円へ2倍超の成長を記録。この間の19年3月期に「ITサービス」を追い越した。踊り場感のある22年3月期においても450億円を見込む。
高品質の日本の漫画は海外でも需要があるとみられており、今後本格的に海外進出が進めば、収益力が高まるのは確実だ。
こうした中で5.65%の株式保有を公表した、「物言う株主」として知られるオアシス・マネジメントの報告書は市場に衝撃を与えるのに十分だった。何しろ帝人以外に5%超の大口株主はいない状態だった。
報告書に記した保有目的は「ポートフォリオ投資および重要提案行為」で、「重要提案行為等」については「株主価値を守るため、重要提案行為を行うことがある」としている。
ということは今後、インフォコムに増配や自社株買いといった株主還元策の強化を求めることは十分考えられるというのが市場の受け止めだ。また、帝人との親子関係に踏み込んだ提案をしてくる可能性もある。
インフォコムの株価は年初から下落傾向にあり、やや割安感も出ていただけに、飛びついた投資家も多かったようで、12月29日の株価は当日安値が前日高値を60円も上回り、大きく「窓をあける」チャート図を描く節目の展開。年明け2022年1月4日の大発会も2200円を挟んで推移し、堅調だった。(ジャーナリスト 済田経夫)