投資マネーが巨大ITに集中するリスク
こうした巨大IT企業に資金が集中する状況は、世界経済にどんな影響を与えるのだろうか。
日本経済新聞(1月4日付)が「社説:3兆ドル企業アップルの衝撃」で、「投資マネーが一部の巨大テック銘柄に集中しすぎて、市場が不安定になるリスクに留意したい」と警鐘を鳴らしている。
「マクロ的には米金融の量的緩和の縮小が進む中で、同社やマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムなど巨大テックに投資が集中する点が気になる。中でもアップルの株価は他のテック株の動向に影響し、相場全体の水準を左右する。スマホ市場の成長の限界が意識される中で、アップルが今までのような成長路線を維持できるか、注視する必要がある」
専門家たちはアップルの快挙をどう見ているのだろうか。
1月4日付日本経済新聞のミニ解説コーナーの「Think!」欄では、独立系投資会社「リブライトパートナーズ」の代表パートナー蛯原健氏が、投資家の立場からこう述べている。
「規模もさることながらそのスピードが問題。2年強で1兆ドルから2兆ドルとなっただけでも驚異的だが、そこから1兆ドル上乗せし3兆ドルになるのにたったの1年強である」「(その背景には)リスキーなハイパーグロース銘柄(※1)から、より収益性のヘルシーな株式へと質への逃避が進んでいる事や、インフレの加速によるLVMH(※2)株価の好調に象徴されるようにブランド品が総じて好調である事にもよる」
(※1)成長率が極めて高い銘柄。
(※2)パリを本拠地とする世界最大のファッション業界大手企業体。
また同欄で、日本経済新聞社編集委員の滝田洋一記者は、「米国のハイテク株の独り勝ちが際立ちます」としたうえで、
「さらに、一時もてはやされながら、急失速した企業には、(1)恒大EV、(2)アリババ健康IT、(3)ペロトン(オンラインフィトネス)、(4)拼多多(EC)、(5)ビリビリ(ゲーム)、(6)ズーム、(7)ピンタレスト(SNS)、(8)百度、(9)ソフトバンクG、(10)ローク(ストリーミング)が。(1)(2)(4)(5)(6)(8)が中国勢なのは、(バイデン)政権の締め付け強化の結果でしょう」
と、バイデン政権の対中国政策も背景にあると指摘している。
ヤフーニュースのヤフコメ欄では、日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏が、日本企業の奮起をこう期待した。
「日本の東証一部の時価総額が730兆円ですので、アップル1社でその半分弱となります。GAFAMとテスラを加えれば日本の東証一部の時価総額を抜いてしまいます。もちろん、バブルではないか?という懸念もあるのですが、それだけ未来に対して夢とビジョンを提示できているのは素直に評価したいところです。日本企業も未来のビジョンを提示していく必要があります」
アップルの2022年第1四半期(20年10~12月期)決算の発表は、1月下旬に控えている。市場の予想では、売上高伸び率は5四半期ぶりに1ケタ台にとどまるといわれる。世界的な半導体不足が影を落としているからだ。しかし、そこはティム・クック最高経営責任者(CEO)の手腕が問われる局面。割高な水準にある株式市場の期待にどう応えるのか。仮に、驚異的な決算数字が発表されれば、さらにアップルの時価総額が上がるかもしれない。
(福田和郎)