「ノーリスクで儲かります」はインチキだと思ったほうがいい
【その3】リスクを理解し、リスクとうまく付き合う
ジャングルに入らないと獲物は獲れない。リスクを取らない限り、リターンは得られないということだ。
日本人はリスクについて疎いと言われる。これは「リスクを負うのは国や会社などの組織であって、個人はリスクから守られるべき」という社会的合意があるためだ。一種の社会主義的な考えと言ってよいだろう。いわゆる終身雇用制も、そのような発想から生まれたものだし、お金ができたらとりあえず銀行預金をしたり国債を買ったりしておく、というのもリスク回避の考えによる。
しかし、株を買わずに銀行に預金するだけでは「投資」とは言わない。「預金しても、ほとんど金利がつかない!」などと文句を言っている人は、ジャングルに行かずに「獲物が獲れない!」と嘆いているようなものだ。
大事なことは、まず一歩を踏み出してリスクを取ること。それ以外に事態を改善する方法はない。そもそも、リスクがない世界などというものはこの世に存在しない。もしもリスクがなさそうな投資商品があったとしたら、それは落とし穴が隠れているだけであり、そういう場合こそ特に気を付けないといけない。
「ノーリスクで儲かりますよ」などという儲け話はまずインチキだと思ったほうが良い。一方で数百万円以内程度の普通の銀行預金は銀行と政府が何重にも守ってくれているものなので、そこに超過リターンなどあるはずがない。ノーリスク・ノーリターン(リスクを取らなければ儲けもない)である(ただし、厳密にいうとインフレなどのリスクがあることに注意)。
株式のように価格が常に変わっていくようなものを購入するのには勇気がいる。国の経済や会社の経営状態は日々刻々と変化しているが、株価の変動にはそのような実体的な変化と、それに加えて人々の様々な思惑が反映している。
しかし価格変動というのは、いわばリアルタイムの実況報道であり、我々にとって非常に有益な情報だとも言える。これを使って状況を確認しながら資産を増やしていく、というのが運用の醍醐味である。
子供は泥んこになって遊んだり走り回ることによって、ケガをしたり病原菌をもらってきたりするが、それは成長に欠かせないものである。ちょっとした傷や病気はいずれ治るし、それによってリスクへの対処の仕方を学習していく。もしも子供に宇宙服のようなものを着せてそういうリスクから完全に守るようにしたら、その時点ではリスクがなくなって良いように見えても、長い目でみるとリスク管理ができない人間が育ってしまい、大変なことになる。
株を買って一定程度の損をするというのは、子供がかすり傷や切り傷を負うようなものだ。それが腕や足を失ったり命を失ったりするような深刻な事態にならない限り、我々の糧になる。
銀行預金という宇宙服を脱ぎ捨てて、株式や債券の世界(ジャングル)に一歩踏み出す人だけが獲物を狙える。リスクの世界にようこそ!(小田切尚登)
(おわり)