【お正月は本を読む】世界チャンプに学ぶビジネスの秘訣! 勝ちスイッチの奥義とは?(尾藤克之)

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   2021年8月、米スポーツ専門メディア「Bleacher Report」は「2000年以降の最強のボクサー10傑」と銘打ったボクシングの格付け企画を実施し、井上尚弥を選出した。

   「日本ボクシング史上最高傑作」と呼ばれ、ボクシング選手初の自己啓発書。思考、肉体、メンタル、モチベーション、未来について書き下ろした一冊になる。

・24時間ボクシングのことは考えない
・敗戦のイメトレをする
・リングに命をかけない
・一流を真似る
・ボクシング生活のゴールは決めてある

など、そのイメージからはやや意外とも感じる思考術。それぞれの世界で戦う、多くのビジネスパーソンの勝利をも引き寄せること間違いない。

「勝ちスイッチ」(井上尚弥著)秀和システム
  • ボクシング選手初の自己啓発書(写真はイメージ)
    ボクシング選手初の自己啓発書(写真はイメージ)
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パンチ力があるということ

   井上尚弥さんは、

「これまで一度として戦意を喪失しかけるほどのパンチを打たれたことがない。肉体と神経の回路を切断され、キャンバスに沈んだ経験はない」

と主張する。

「試合中に、わざとガードの上から打たせてパンチ力を計るという作業を時折、実行している。しかし、恐怖心を抱かせるパンチに遭遇したことがない。『やばいな』と感じるパンチャーとの対戦経験がないのだ。1ラウンドが終わると、必ず、そのインターバルで、大橋秀行会長から『パンチはあるか?』と聞かれる」

と、井上さん。

「ボクシングジャーナリズムの方々に聞いた話では、それが大橋会長の出身ジムの『ヨネクラジム』を立ち上げ、恩師と慕う米倉健司会長の口癖。大橋会長は、セコンドの心得のひとつとして、それを踏襲されているそうだが、それほど、パンチの『ある』『なし』は、試合の勝敗に大きな影響を与える。心理面も含めてだ」

   これは、パンチ力でボクシングのスタイルが変化することを意味する。しかし、わざとガードの上から打たせてパンチ力を計るとは並の選手ができる技とは思えない。

   所属する、大橋ジムの大橋秀行会長は、

「井上尚弥にはラスベガス進出、5階級制覇、具志堅用高さんの日本記録を超える世界王座14連続防衛、メジャー4団体統一、ボクサー初の国民栄誉賞を取らせる」

と公言する。

   期待は膨らむばかりである。

天才とは努力をする人のこと

   天才の定義とは、「何もしていないのにできる人。努力しないで才能をリング上で発揮できる人」。こういう人が努力すると神の領域へ向かうと、井上さんは主張する。しかし、自身のことは「天才ではない」とも言う。どういうことか――。

「父は、メディアの取材で『天才ですね』と、ヨイショされると『尚が血のにじむような練習をしてきたことを知らないのに、簡単に天才などという言葉を使わないでくださいよ』と冗談半分、本気半分の勢いでたしなめるときがある」

と、井上さんは明かす。

「小学生のとき、拓真と2人で、朝6時に起床して自宅の近くにある公園の1周400メートルのグラウンドを月曜日から土曜日まで毎日、10周走った。中・高校生になると、自宅に、父が設置した荒縄を腕だけでのぼり、父が乗る軽自動車を押して坂道を上った。今でもロードワークを欠かさない」

   日本の選手の中では頭ひとつ抜けているという自負はあると主張するものの、そこが目標ではない。求めているのは、1試合、1試合の内容と結果である。

パンチをもらわずに勝つ

   試合前に遺書を書いて会場に向かうボクサーや、「ぶっ殺してやる」と、気持ちを極限まで高めて決戦への花道を歩くボクサーの話はよく耳にする。しかし、井上さんは「命をかける」ボクシングは、理想とするボクシングの対極に位置していると言う。

「ルールのある競技のなかで、腕だけを使って、最大限に、何ができて何を魅せられるのか。スポーツと割り切れるほど、純麗な感情ではなく、表現は難しいが、情熱や殺気、そして冷静さ......その両方のバランスを操りながら、勝つためのデザインを描き、その作業を遂行していく。ボクシングの最高峰を突きつめたいのだ」

   井上さんは、

「スピード、テクニック、パワー、気力、ラウンドのコーディネート、そして、人智を超えた神業。僕は『打たさずに打つ』『パンチをもらわずに勝つ』究極の心技体の完成作品をそこに求めている」

   ビジネスの世界にいると、目的を達成するためにガチで争うことがある。目標を達成してもモヤモヤが消えないことがある。刀を抜くと対立は避けられないが、そんな時ほど意識しておきたい。

   「打たさずに打つ」「パンチをもらわずに勝つ」ということ。この機会に、世界チャンプの「勝ちスイッチ」をご賞味いただきたい。(尾藤克之)

尾藤 克之(びとう・かつゆき)
尾藤 克之(びとう・かつゆき)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員。
議員秘書、コンサル、IT系上場企業等の役員を経て、現在は障害者支援団体の「アスカ王国」を運営。複数のニュースサイトに投稿。著書は『最後まで読みたくなる最強の文章術』(ソシム)など19冊。アメーバブログ「コラム秘伝のタレ」も連載中。
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