パンチをもらわずに勝つ
試合前に遺書を書いて会場に向かうボクサーや、「ぶっ殺してやる」と、気持ちを極限まで高めて決戦への花道を歩くボクサーの話はよく耳にする。しかし、井上さんは「命をかける」ボクシングは、理想とするボクシングの対極に位置していると言う。
「ルールのある競技のなかで、腕だけを使って、最大限に、何ができて何を魅せられるのか。スポーツと割り切れるほど、純麗な感情ではなく、表現は難しいが、情熱や殺気、そして冷静さ......その両方のバランスを操りながら、勝つためのデザインを描き、その作業を遂行していく。ボクシングの最高峰を突きつめたいのだ」
井上さんは、
「スピード、テクニック、パワー、気力、ラウンドのコーディネート、そして、人智を超えた神業。僕は『打たさずに打つ』『パンチをもらわずに勝つ』究極の心技体の完成作品をそこに求めている」
ビジネスの世界にいると、目的を達成するためにガチで争うことがある。目標を達成してもモヤモヤが消えないことがある。刀を抜くと対立は避けられないが、そんな時ほど意識しておきたい。
「打たさずに打つ」「パンチをもらわずに勝つ」ということ。この機会に、世界チャンプの「勝ちスイッチ」をご賞味いただきたい。(尾藤克之)