「コンプレックス」が二代目社長を苦しめる...... 「偉大な先代を超したい」と思ったとき、どうすることがよいのか!?(大関暁夫)

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   ミュージカル女優の神田沙也加さんが、公演先で宿泊していたホテルの窓から転落し亡くなられたというショッキングなニュースがありました。享年35歳。あまりに早すぎるお別れに世間が騒然となりました。

   神田さんと言えば、俳優の神田正輝さんと歌手、松田聖子さんの一人娘であり、いわば「超エリート芸能人」です。従い、彼女を紹介する記事では「松田聖子さんの娘」という修飾語をもって紹介されるのが常でした。

   今般の報道によれば、最初歌手としてデビューした彼女でしたが、日本の芸能史に残るようなスーパーアイドルである母と比較されることがつらく、自分独自の道を歩んでいきたいとミュージカルへの転身を図ったのだといいます。

   大変な「がんばり屋」で、「松田聖子の娘」としてではなく自分のポジションを「神田沙也加」として確立したいと、血のにじむような努力を重ねたのだそうです。そして演出家の宮本亜門氏に見出されてから、ミュージカルスターへの階段を着実にのぼり続け、大きな役柄もようやく手に入れるところに来ていた、そんな矢先の急逝はあまりにも不可解で、親族はもとよりファン、関係者のショックは大きいようです。

  • コンプレックスが二代目社長を苦しめる......(写真はイメージ)
    コンプレックスが二代目社長を苦しめる......(写真はイメージ)
  • コンプレックスが二代目社長を苦しめる......(写真はイメージ)

早すぎる神田沙也加さんの死が意味すること

   芸能の世界で生きていく限りにおいて、同じ世界であまりにも大きな成功をしてきた母は常に比較される対象であり、たとえ活動ジャンルが異なっていても芸能というフィールドに留まっているならば、決して逃げられない「ライバル」でもあります。

   しかも絶対に勝てないと思う「ライバル」だとすれば、それは当然コンプレックスになって、いくらがんばっても壁にぶち当たるというようなことがあるたびに、コンプレックスが本人を苦しめ、追い詰めることになっていたのかもしれないことは想像できます。

   カリスマ経営者や創業経営者の後を継ぐ血縁後継者には、ある意味、沙也加さんと同じような葛藤があるという姿をいくつも見てきました。

   大きな功績を残して亡くなった父の跡を継いだR氏は、経営者として父と比較されることを嫌って経営者としての独自色を出そうとするあまり、先代の脇を固めていた役員たちの反対を押し切って未経験の新規事業に多額を投資しました。挙句に、自身に反発する役員たちを解任して実質、独裁体制を築きます。

   一度は軌道に乗りかけた新規事業でしたが、次第に足を引っ張ることに。それでもR氏は意地でも撤退はせず、結果大きな赤字を計上。3年後には民事再生の憂き目に会い、会社は人手に渡ることになりました。

   後継者の独自路線が100%失敗するというわけではありませんが、R氏の場合はまさしく親という「ライバル」に対するコンプレックスに押しつぶされた結果のように思えました。

先代のカリスマ経営者は「先生」と思え!

   一方でR氏同じく、超ワンマンでカリスマ経営者だった父亡き跡を継いだH氏は、R氏とは逆に、父を手本に父が引いた路線に逆らうことなく忠実に踏襲し、その後も至って順調に自身の会社経営を軌道に乗せています。

「今の会社をゼロから作り上げた父には到底かなわないと分かっていますから、対抗などしようもありません。経営者としての父は決してライバルではなく先生と思っています」

   沙也加さんも、母・聖子さんを芸能界の「先生」と割り切っていたら結果は違っていたのかもしれないと、H氏の言葉を思い出し、ふと思いました。

   世の大半の中小企業は同族経営であり、我が国では本人の好むと好まざるに関わらず、経営者である親の跡を継いで二代目、三代目経営者になるというのはごくごく当たり前の流れです。

   傍で見る限りにおいては、H氏のような割りきりの良い人はむしろまれな部類でしょう(心の奥では、同じような悩みを抱えているようにも思いますが......)。二代目、三代目は「親の創った会社を継いで、無条件に社長になれてうらやましい限り」などと、羨望のまなざしで見られることも多いのですが、じつは先人たる親の存在の大きさを否応なく意識させられ、人知れず悩んだことのない者はいないといっても過言ではありません。

   先代経営者でもある肉親がそれを引き継ぐ経営者の最大のライバルとなるのが、同族経営の宿命ともいえるのです。すなわち、その葛藤をいかにうまく乗り切るのか。そのことこそが、二代目、三代目の経営者に求められる重要なマネジメント手腕であると言ってもいいでしょう。

「二代目がダメにし、三代目がつぶす」というけれど......

   同族企業は「二代目がダメにし、三代目がつぶす」などと言われることがありますが、それは必ずしも後継者が無能だからではなく、成功に導いた創業者やカリスマ先代に対するコンプレックスにこそ、遠因であるように思うのです。

   親が優秀であればあるほど、実績を残せば残すほど、引き継ぐ血縁後継者にはつらい部分も多いというのは、なんとも皮肉な話です。

   親の地位や出来不出来によって、生まれた時から人生が決まってしまうのは理不尽だと、親から引き継ぐものがないから浮かばれないと嘆く若者たちが「親ガチャ」などという言葉で揶揄する昨今。じつは引き継ぐものが大きい者ほど、それを受け止める苦しみも多いのだということも併せて認識して欲しいと思います。

   神田沙也加さんの悲報を耳にして、そんなことを思った次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
姉妹サイト