HIS「GoTo給付金」を不正受給、澤田社長の「むかつきます」に反省の色なし!?

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   旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が、政府の観光需要喚起策「GoToトラベル」の給付金を不正受給していた。子会社2社がかかわり、不正受給の総額が最大約6億8300万円になるという。

   TBSの調査報道で発覚し、この間、追い込まれる形で調査委員会を発足させるなど自浄作用には疑問符がつく展開。HIS本体の関与は確認されなかったとして、当初はHIS創業者である澤田秀雄会長兼社長の処分も見送り、観光庁から厳重注意を受けて初めて減給処分をするなど、対応が後手に回った感は否めない。

   いずれ刑事事件に発展する可能性もあり、信頼失墜のツケは大きい。

  • 「GoToトラベル」観光業復活の起爆剤のはずが......(写真はイメージ)
    「GoToトラベル」観光業復活の起爆剤のはずが......(写真はイメージ)
  • 「GoToトラベル」観光業復活の起爆剤のはずが......(写真はイメージ)

実際の宿泊は延べ4800泊のうち114泊だけ

   謝罪会見では、HISの澤田秀雄社長ら幹部が同席。同社の顧問弁護士らでつくる調査委員会が調査結果を、2021年12月24日に発表した。問題の子会社は、ミキ・ツーリスト(東京都港区)とジャパンホリデートラベル(JHT、大阪市)。「宿泊」の舞台になったのはホテル運営会社のJHAT(ジェイハット)。ジェイハットはHISの社長を務めた平林朗氏が立ち上げ、HISと資本関係はないが、HISと同じ東京都心のオフィスビルに入居しているなど親密な関係とされる。

   報告書によると、ミキ・ツーリストは、従業員80人が60泊するという宿泊契約をジェイハットと結んだが、実際に泊まったのは延べ4800泊のうち114泊だけだった。給付金を申請したジェイハットに、計4080万円が不正に支払われた可能性があるという。

   JHTは、ジェイハットの提案で、同社が運営するホテルに泊まる法人向けの研修旅行プランを企画。ジェイハットが紹介した法人に延べ5万5053泊分を販売し、給付金を申請した。

   GoToトラベル事業の運営事務局の指摘で調査したところ、宿泊者名簿の1169人中、少なくとも532人が実際には泊まっておらず、不正な申請に基づく給付額は最大6億4249万円に上る。これらを合わせ不正に受け取った金額は最大で計約6億8329万円分にのぼり、HISは内容を確認して返還していく考えだ。

   一方、HIS本体の関与は確認されなかったとしている。

社員の氏名・住所を勝手に使って予約していた

   GoToトラベル事業は、コロナ禍で打撃を受けた観光業界を支援するため、1人1泊2万円を上限に旅行費用を国が補助する仕組み。2020年7~12月に実施され、旅行代金の割引や地域クーポン券として約5400億円分が使われたという。

   今回のような不正受給が、これ以外にもあるのか、あれば、どれだけの規模なのかといった実態解明は、今後の観光庁の調査を待つことになる。

   今回の問題発覚の発端はTBS「ニュース23」の「調査報道23時」のスクープだった。2021年11月16日、身に覚えのない「行ったこともないないホテルに夫婦で69連泊」の確認を求める照会がGoTo事務局から来たという視聴者の情報を報じた。

   ホテルは「夫婦名の宿泊記録がある」と回答。「都内のある会社」が社員のテレワークのための団体予約に「誤って夫婦名で予約」したという説明だったとし、この時点では個人情報の流出・流用を問題視する報道だった。

   その後、TBSは取材を進め、12月9日放送で、今回の事案がミキ・ツーリストなどによる組織的もので、元社員の証言、壇原徹典社長(当時)への直撃取材。社員の氏名・住所を勝手に使って予約したことを謝罪する社内メールなどを報じ、ほぼ問題の構図を描き出した。

   HISが調査委員会を設置したのが12月8日。その発表は9日で、TBS報道に迫られて動いたことが推察できる。

   HISの対応は、その後もお粗末だった。12月24日の調査結果の発表会見で、澤田氏は「子会社の管理不行き届きというところは申し訳ない。ガバナンスについては甘かったと思っている。もう一度見直していきたい」と頭を下げ、ミキ・ツーリストの檀原社長を解任とし、JHTについてはジェイハットが主導し故意はなかったとしてJHTの吴煜康社長を取締役に降格するとした。

   一方、自身やHIS本体は「一切不正に関与していない」と強調し、一切の処分をしなかった。

斉藤国交相「刑事告訴を視野に入れる」と非難

   会見では、かつてHIS社長を務めた平林氏が不正にかかわったことを問われた澤田氏が、「むかついていますね。何でそんなことするのかと。そういうことをされたのは非常に残念に思います」と感情をむき出しにしたあたりは、自身の責任への反省より被害者意識のほうが強い印象を与え、不評だった。

   事態はこれでひとまず沈静化するかに見えたが、監督官庁の国土交通省・観光庁はHISの対応に甘さを感じたようだ。調査委設置から2週間程度で結果をまとめるという時間的制約はあったが、ジェイハット側には調査しておらず、ジェイハットから「当社はヒアリングを一切受けておらず、当社の見解が全く反映されていない。非常に困惑しており不満を感じている」(24日の声明)と反論されるなど、調査は十分とはいえない面がある。

   業を煮やした国土交通省は、仕事納めの12月28日に斉藤鉄夫国交相が会見し、ジェイハットなどに対し「刑事告訴を視野に入れる」などと強い言葉で非難。観光庁はこの日、HISに厳重注意をし、改善策の策定と事実関係の調査継続を指示するとともに、HIS子会社2社とジェイハットをGo To事業再開時に参加させないと発表した。

   これを受ける形でHISは同日、延期していた決算発表の場で、当初は「考えていない」としていた処分について、澤田氏を基本月額報酬の75%を3か月間減額、2人の取締役は同50%減額とすると発表した。

   子会社が起こした不正を直視しない当初の姿勢の代償は小さくないということか。巨額の国費を投入する事業で起きた不正であり、再開するGoToにHIS本体が参加できるか予断を許さない――そんな声が業界では聞こえる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

   

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