トルコ政府の補償を利用して無リスクポジションを構築する
別の見方をしてみましょう。この新しい預金制度は、為替差損を補償しますが、これは預金者にリラのプットオプションを無料で付与しているようなものです。オプションを購入するときには、プレミアムを支払わなければなりませんが、今回、このプレミアムはトルコ政府が負担してくれます。こんな美味しい話はありません。
先ほど見たように、どう見てもこの新預金制度は最終的に破たんしますし、そのときにはリラはとんでもなく下落します。しかし、超短期的にはトルコ政府は約束を守ろうとするでしょう。1年は無理でも、3か月は大丈夫かもしれません。
トルコの銀行に預金口座を持つことができる人ならば(今回、法人はこのスキームを利用できない)、ほぼ無リスクで利益をあげることができるストラテジーを取ることができます。
あなたが日本でビジネスをしている(成功している)トルコ人ビジネスマンだとします。手元の円資産からこの新預金制度に、たとえば2億円預け、同時に為替証拠金取引会社との間で、トルコリラ円1億円相当をショート(売り)にします。 コールオプションとプットオプションを同時に買う戦略をストラドルと言いますが、こうすることで、擬似的に同様のポジションを持つことができます。
ストラドルのポジションを持てば、上がっても下がっても利益が出ますが、同時に相当のプレミアムを支払って購入するので、プレミアム料を上回る動きにならないと損失を被ることになります。しかし、今回はトルコ政府が無料でオプションを提供してくれます。
もしリラが上昇すれば、トルコリラの預金で利益が出ます。為替証拠金のポジションでは損失が生じますが、リラ預金の利益は為替証拠金取引の2倍です。その分利益になります。
その反対に、もしリラが下落すれば、トルコの銀行のリラ預金はトルコ政府が補填してくれることになるので、損失は生じませんが、為替証拠金のショートポジションから利益を得ることができます。リラが上昇しても、下落しても儲かります。
条件としては、トルコの銀行に預金口座を持って、トルコ政府が提供する新預金口座に資金を入れることができること。その際トルコリラへの交換レートが合理的な範囲内でなければなりません。もし、トルコリラに交換する時の為替レートが法外であれば、このトレードは成立しません。また、税金関係も無視しています。損益を合算できる法人であればOKですが、このスキームを利用できるのは個人だけです。また、大前提として、トルコ政府が新預金制度の約束を守ってくれることです。
参考までに、今回のスキームの損益ダイアグラムを作ってみました。2億円分の預金と、1億円分の為替ヘッジを図示したのが<図1>です。合成ポジションが<図2>となります。
(志摩力男)