トルコリラの大暴落は、2021年の外国為替市場、最大のニュースだったかもしれません。
利下げが必要と固く信じるトルコのエルドアン大統領は、短期間のうちに中央銀行総裁を3人も罷免しました。先進国ではありえない話です。現トルコ中銀総裁であるカブジュオール氏は、エルドアン大統領の意向どおりの金融政策を進めるしかありません。
反対すれば、自分が4人目として頓首になるだけでしょう。
トルコリラ、わずか2か月でほぼ半値の6円に!
10月21日に政策金利を18%から16%へと2%下げ、11月18日にはさらに1%利下げ、12月16日にも1%下げと、合計4%利下げし、トルコの政策金利は14%となりました。この間、トルコリラは下げスピードを速め、1トルコリラ=12円台半ばで取引されていたのが、わずか2か月ほどで6.20円前後まで急落しました。
しかし、ここでエルドアン大統領は秘策を出してきました。トルコリラ預金で為替差損が生じた場合、それをトルコ政府が補償するという新預金制度です。
詳細ははっきりとわかりませんが、預金期間3か月、半年、1年で預金開始日の為替レートと終了日の為替レートから、預金金利以上の損失が出た場合、その差額がリラで口座に振り込まれるというものです。トルコ政府が通貨価値下落を補填します。
そんないい話、本当に可能なのでしょうか? 混乱した人も多いでしょう。これは、いったんトルコを日本に置き換えて考えて見るとわかりやすいでしょう。
先日発表された日本の総預金額は970兆円。これが仮に50%下落したとします(今年のトルコリラの下落は最大60%)。そうなると、約485兆円が「補償」として銀行口座に振り込まれますが、485兆円とはあまりにも巨額。銀行の収益からは当然払えないし、政府の税収からも払えません。
そもそも、485兆円は日本のGDP(国内総生産)に近い数字です。その金額が補償されるというのは、ありえません。
もし、そのような事態となれば、中央銀行が何もないところから輪転機を刷ることになり、巨額のマネーサプライが放出されることとなり、通貨はさらに暴落します。まさにハイパーインフレーションとなるでしょう。
よって、この預金制度は維持不可能です。トルコを大混乱に陥れます。トルコの政策当局の中にも、そうしたことを理解しているは多くいるはずですが、なぜこのような政策がまかり通ったのか。不思議です。
おそらく「時間稼ぎ」なのでしょう。再来年、2023年にトルコは選挙がありますが、エルドアン大統領筋から、さっそく大統領選挙の前倒しの話が出ています。