日本が世界に誇ってきた統計制度に対する信頼が、根底から揺らいでいる。
国土交通省で発覚したのは「建設工事受注動態統計調査」のデータ改ざんだ。2013年度から21年4月にかけ約8年間にわたって行われていたという。しかも、19年以前の調査票はすでに廃棄されており、国交省は「データの修正は困難」としている。
調査結果はGDPの基礎データの一つ
この問題が深刻なのは、「建設工事受注動態統計調査」が政府統計の中でも特に重要な「基幹統計」に位置づけられているということだ。
調査結果は、国内総生産(GDP)の基礎データの一つともなっている。GDPは内閣府が国内で一定期間につくられたモノとサービスの付加価値の合計額を推計し、四半期ごとに発表。前期と比べた増減率が「経済成長率」だ。国際的にも高い注目を集める要統計の筆頭だ。国交省の改ざんの影響によってはGDPも訂正を余儀なくされる恐れすらある。
国の統計制度をめぐっては、3年前に同じく基幹統計と位置づけられる厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で不正が発覚。政府統計が各省庁に統計の点検を指示するなど大混乱を招いた経緯がある。
しかし、国交省では一斉点検後も不適切な処理を続けていた。2019年1月には会計検査院から問題だと指摘を受けたが、改ざん手法を修正しただけで直近まで統計データに恣意的に手を加えていた。
国交省の職員が自ら調査票を書き換えていたことも判明しており、政府関係者は
「統計は正確さこそが命。一斉点検、会計検査院の指摘を受けてもなお問題点を認識せず、改ざんを続けていた杜撰さに驚く」
と、眉をひそめる。
「組織ぐるみ」の批判は免れない
政府は火消しに躍起だ。臨時国会でもこの問題が取り上げられ、野党の追及を受けた岸田文雄首相は「徹底的に経緯や原因の検証を行う。政府統計への信頼を取り戻すことが必要だ」と徹底調査を約束した。
12月23日には一連の経緯を検証する第三者委員会が初会合を開き、国交省が改ざんに手を染めた動機などについて解明作業に入った。2022年1月中にも結果を報告する予定だ。
日本の統計制度は緻密な調査と正確性から国際的に高い評価を集めてきた。しかし、相次ぐ基幹統計の改ざんで印象は地に落ちたと言っていい。
「建設工事受注動態統計調査」は約1万2000の業者から都道府県が調査票を回収。それを国交省が集計して建設業界全体の推計地を公表する仕組み。改ざんには国交省の指示で都道府県の統計担当者が関わっており「組織ぐるみ」との批判は免れない。
古い調査票が既に破棄されているため、仮に改ざんでGDPの結果に影響があったことが判明しており、それを正すことすら難しい可能性もある。
「先人たちが連綿と積み上げてきた統計精度への信頼は崩れた。再びこれを積み上げるのは容易ではない」。基幹統計に携わる全国の関係者からは、こんな恨み節が聞こえてくる。(ジャーナリスト 白井俊郎)