2021年も、早くも年の瀬が押し迫ってきました。コロナ禍でどこにも行けず&行かず、1年の大半を自宅で過ごしたという方も決して少なくないと思います。
年明けの感染爆発で始まってオミクロン株の登場で終わりそうな2021年は、住宅・不動産市場もその影響から逃れることはできなかったと断言できます。ただし、感染爆発で緊急事態宣言が発出されたり延長されたり、蔓延防止等重点措置に移行したりしても、日経平均株価は安定的に3万円前後で推移しましたから、この間、株式投資によって利益を上げた投資家も多く、2021年に入ってからその利益を確定させて付け替える動きが活発化したことで主に中古マンションの需給が非常にタイトになりました。
2021年を振り返り、コロナ禍の影響を受け続けた住宅・不動産市場
◆ 五輪選手村 11月販売分は最高111倍の大人気!
投資家は基本的に現物の不動産に投資する傾向が強く、竣工・引き渡しまで時間のかかる新築物件にはほとんど手を出しませんから、実需に加えて投資という分厚いニーズに支えられ、中古住宅の売れ行きが加速した1年となりました。
三大都市圏ではそれぞれ中古住宅の価格自体の違いはあっても、いずれも昨年同期比で10~15%程度の価格上昇を記録しています。
一方の新築住宅も、1年遅れで開催された東京オリンピック・パラリンピックの終了後に、その選手村跡地の物件の販売が再開され、11月に販売された631戸は平均8.7倍、最高倍率111倍という極めて高いニーズを集めて完売しましたから、コロナ禍であっても特徴的で話題性の高い物件には人気が集中するという現象が発生しています。
また、今年は富裕層向けの特別な物件として原宿近くの神宮前に1戸あたり67億6000万円(専有面積約627平米/坪単価3564万円)の物件が分譲・竣工しましたから、世界的な不動産価格の高騰の余波が日本にも及んできた感があります。
サプライチェーンの脆弱性や半導体不足などの影響もありますが、依然として東京都心部に新たに分譲されるマンションの価格は上昇しており、坪単価が600万円を超える物件も珍しくなくなっています。コロナ禍とは関係のないところで購入資金に余裕のある層が住宅購入に前向きになっている状況が窺えます。
◆ コロナ禍では首都圏に限って賃貸居住ニーズが明確に郊外化傾向示す
また、テレワークの進捗・定着が進んでいる首都圏では、住宅ニーズの一部郊外化の意向が顕著で、筆者が所属するLIFULL HOME'Sの「首都圏借りて住みたい街」ランキング1位が神奈川県の県央エリアに位置する「本厚木」となりました。首都圏郊外の街(駅)が初めてトップに立ったことになります。それまで4年連続トップだった「池袋」は5位に下がっており、このことだけでもコロナ禍での大きな変化と言えるでしょう。
テレワークやオンライン授業が定着すれば、毎日通勤・通学する必要がなくなるので、利便性を考慮して賃料の高い都心周辺に居住する必要性が薄らいだこと、特に首都圏では都心と郊外の賃料格差が2倍超と他の圏域に比べて大きいこと、首都圏は圏域が広く郊外方面に転居しても生活圏としての利便性が(通勤・通学の所要時間を除いて)大きく変わらないこと、などが首都圏で発生する賃貸ニーズの郊外化の背景と考えられます。
ただし、郊外化したのは居住意向だけで、実際に転居した例は限られてはいますが、コロナ禍の影響を避けて落ち着いた生活を取り戻したいという潜在的な需要が浮き彫りになりました。
コロナ禍が長期化し、またワクチン接種が徐々に進む中にあってはその意向もさらに変化する可能性があります。東京都および東京都心に新たに流入してくる"移動人口"もコロナの感染拡大が始まってから大きく減少しており、毎月の移動人口は転出超過(入ってくる人よりも出ていく人の数が上回る状況)となっていますから、この移動人口の推移も、今後の賃貸ニーズ、購入ニーズを探るうえで確認しておくべき指標だと思います。
ちなみに、この「意向の郊外化」は近畿圏、中部圏、福岡県など他の都市圏では、まったく発生していません。首都圏で意向が郊外化したとされる、上記の背景が他の圏域にはわずかで、テレワークの定着率も首都圏と比較すると低位に留まっていますから、コロナ禍前と変わらず、ほぼ毎日通勤・通学するのだから、転居する必要もないということになるのでしょう。
なぜ、コロナ禍でも住宅需要は落ち込まなかったのか?
これまでのところ、コロナ禍でも住宅需要は大きく落ち込んではいません(2020年4月の1回目の緊急事態宣言発出時は供給・流通がほぼなくなったことで需要も見えなくなりました)。その要因は大きく分けて、二つあります。一つめは、歴史的な住宅ローン低金利です。12月現在では変動型で0.310%というローン商品や、重大疾病でローン返済が困難になった際は元本が半減もしくはゼロになるものまでありますから、生命保険に加入しなくても良くなるような熾烈な「住宅ローン競争」が起きています。
これに加えて、2021年度からは住宅ローン減税の対象(内法)面積が従来の「50平米以上」から「40平米以上」に緩和されたこと(新築のみ)、控除期間が13年に延長された特例が維持されたこと、など主に住宅購入に関する制度的な後押しが拡充されたことが挙げられます。もちろん、コロナ禍によってテレワークが定着し、オンもオフも過ごすことになった住まいのあり方を改めて見つめる機会が増えたことも影響していると言えるでしょう。
二つめは、これらの制度的なものとは別に、ハウスメーカーやマンション・デベロッパーの販売手法が大きく変わったことが挙げられます。コロナ禍で非接触&「三密」を避ける販売手法に変わった結果、プッシュ型の営業スタイルではなく、VRなどを導入してオンラインでの説明会などを実施し、品質の良さや居住快適性、安全性などを丁寧に説明する手法が導入されました。いわゆる不動産業界におけるニュー・ノーマルです。
新築も中古も積極的に売り込もうというスタイルではなく、品質重視(当然ながら価格も相応ですが)であることを理解してくれた顧客に売れれば良いという「数を追わない販売スタイル」となり、購入側が情報収集も含めて積極的に探さないと、人気物件はすぐに売れてしまう状況となっています(高級自動車の販売手法に似ています)。
実際に、首都圏では新築マンションの新規供給および在庫が減少する一方、契約率がアップするという現象が起きています。欲しいのに希望通りの物件が買えない、という購入意欲を喚起させる販売手法が奏功しているようです。
2022年は住宅ローン減税に大きな変化 春先には駆け込み需要も
では、来るべき2022年はどうなるかというと、まさに住宅ローン減税が制度変更されることの影響が表れるものと思われます。22年度の税制改正大綱では会計検査院の指摘を受けたことから、住宅ローン減税の控除率が1%から0.7%に縮小されることが決まりました。併せて世帯年収要件も3000万円から2000万円に引き下げられます。
また、新築住宅は13年の減税期間が適用されますが、中古住宅は10年になるため、損得だけで考えれば中古住宅に対するニーズが若干薄らぐ可能性はあるでしょう(来年3月までは現行制度下での1%控除が適用されますから駆け込み需要が発生する可能性もあります)。
また、住宅ローン減税対象物件の面積要件は40平米以上(新築住宅のみ/世帯年収1000万円以下)に維持されました。これによって専有面積が狭めのコンパクトマンション(戸建てはほぼ対象になりません)の売れ行きも引き続き好調を維持する可能性があります。さらに、住宅購入目的の資金贈与非課税枠1500万円も2年間延長されました。
住宅政策は、基本的に国や地方自治体の税収を確保するという点で、必要欠くべからざる重要政策であり続けていますし、また国民の住宅購入意欲を維持・喚起することは景気浮揚にも欠かせないものです。
したがって、コロナ禍で「国の経済を回す」ことを考慮した時、常に住宅購入支援策は経済政策の中心に据えられるべきものです。2022年の住宅市場においては、コロナの影響をいち早く脱して成長軌道に戻すことが期待されているのです。
(中山登志朗)