シナモンの甘い香りや焼きソーセージの香ばしい匂いが漂うクリスマスマーケットが今年(2021年)、ドイツに帰ってきました!
ただし、ドイツ全土ではありません。
Xmasマーケットは1年で最も経済効果の高いイベントだった...
11月末というクリスマスマーケットがオープンする直前のタイミングで新型コロナウイルス感染の第4波が急拡大。報告された新規感染者数は6万人、7万人と増え続け、特に深刻な状況となったドイツ東部、南部の多くの地域でクリスマスマーケットの中止が発表されました。
この「クリスマスマーケット中止!」の速報を目にした時、人々の深いため息が聞こえてきたような気がしました。
暗い冬を明るく照らし、憂鬱な気持ちを吹き飛ばすクリスマスの行事は、ドイツの人々にとって最も大切な行事です。そして、精神的な拠り所であるだけではなく、経済的にも大きな意味を持つイベントなのです。
通常なら、クリスマスマーケットはドイツ全土およそ2500か所で開催され、合計の売上高は50億ユーロ(約6400億円)以上とも推計されます。ドイツ国内外から約1億6000万人の来場者が押し寄せるクリスマスマーケット期間中は、ホテルやレストランも賑わい、観光業や小売業など周辺の経済圏にも大きな恩恵をもたらしていました。
なかでもトップの来場者数と売り上げを誇るクリスマスマーケットがドレスデン、ニュルンベルク、ミュンヘンという、今年中止が決まった地域のマーケットでした。
クリスマスの屋台を出店する人は、年間売り上げの3分の1をクリスマスマーケットで稼ぎ出しているという話もあるくらいの稼ぎ時であり、彼らにとって2年連続での中止はまさに死活問題です。 昨年(2020年)はドイツ全土でクリスマスマーケットが中止され、「バーチャル・クリスマスマーケット」を開催したところもありました。
「木のおもちゃの村」と呼ばれるザイフェンは、今年もバーチャルにクリスマスマーケットを開催。この小さな山間の村は、くるみ割り人形やクリスマスピラミッドなどハンドメイドのクリスマス雑貨で有名です。
バーチャル屋台に入り、気になる商品の写真をクリックすると、出品者のオンラインストアから直接購入できるようになっていて、すでに150万人を越える人が来訪。ザイフェンの商品を買って職人たちを応援できるシステムです。
2Gアームバンドをつけてクリスマスマーケットへ
一方、クリスマスマーケット開催に踏み切った地域はどんな様子かというと......。
しっかり賑わっています! 特に夕方以降や週末は、コロナ禍とは思えないほどの人混みです。
もちろん、手放しでそれを喜べる状況ではありません。私が住むノルトライン=ヴェストファーレン州では2021年12月4日以降、クリスマスマーケットや小売店では新型コロナウイルスワクチンを接種済み(Geimpfte)か、感染後に回復した(Genesene)ことを証明できる人だけが施設を利用できる「2Gルール」が適用されています。公共の交通機関は、陰性証明(Getestete)も認められる「3Gルール」です。
そのため、マーケットに入場する際にはまず「2G」と書いてあるジャケットを着ている係員さんにワクチンパスを提示するなどして、アームバンドをもらわなければなりません。
そして、スパイスたっぷりのホットワイン「グリューワイン」を買う時も、焼きソーセージを注文する時も、そのアームバンドを提示します。 ある屋台で家族の分をまとめて買おうと思い、3つ注文したら、「あなたが一人で食べるの?」「ほかの人のアームバンドも確認しないと売ることはできないわ」と、厳しくコントロールされました。
この厳しい入場規制が、クリスマスマーケットに出店する屋台のオーナーの顔を曇らせています。「わざわざチェックされることを嫌う人は多い」「仕事は増えて、客は減った」というのが、店側の言い分です。
ノルトライン=ヴェストファーレン州の商工会議所の発表によると、クリスマスマーケットが開かれてから2週間の売り上げは2019年の同時期と比べて4割ほどにとどまっているそうです。
「祖父母と過ごす最後のクリスマスになってはなりません」と昨年12月、今はもう元首相となったメルケルさんが感情的にスピーチをした冬から一年。新型コロナウイルス対策、ワクチン接種の有無によって、社会の分断は深刻化しているように感じます。(高橋萌)