「医薬分業」の進展で、街には医師から処方箋を受け取り、院外の薬局で調剤を受ける患者が増えてきた。日本薬剤師会によると、医薬分業率は76.9%(2020年度)に達している。そんな調剤薬局チェーンの一つ、イントロン株式会社(埼玉県川越市)は1993年の創業以来、「選ばれる薬局」をモットーに医薬分業時代を邁進してきた。
加速度が増している超高齢化社会、またアフターコロナ時代に向けて、今後は医療や介護の需要の増加や予防医療の充実がますます重要になってくる。薬剤師が正しい知識を地域住民に提供して、病気の予防や再発を防ぐための生活指導を行いながら、「セルフメディケーション」の拠点として、地域に密着していくことが求められているのだ。
そんな「新しい薬局」の姿を、イントロンの増子治樹社長に聞いた。
調剤薬局の店舗数はコンビニより多い!
――「イントロン」の2代目社長です。まずは、働くことになったきっかけを教えてください。
増子治樹社長「当時はまったく違う業種の会社に就職予定だったのですが、当社の創業者である妻の父が、ただ本当にひと言、『結婚させないぞ』って。(笑)ビジネス的な条件などまったくなく、それで当社に一般社員と同様に入社したのです。創業者は、MR(Medical Representatives=医療情報担当者)のバリバリの営業出身でしたので、有無を言わせない強さがありましたね。ただ、私の父もMRでしたので、薬局業界に無縁だったわけではなく、とても身近な業界ではありました」
――実際に薬局業界に飛び込んでみて、いかがでしょうか。
増子社長「薬局業界は安定した業界というイメージを持っていました。規制業種であることで、景気の影響が少ないこともありますが、何より『規制があることによる伸びしろ』が多いのでは、と感じていました。実際、規制によって、できることが制限されていますが、時代の変化に伴い法律が改正され、規制が緩和されるにつれて、できる範囲が広がって今日に至っています。
調剤薬局の数はドラッグストアも含めると、約6万件でコンビニエンスストアの店舗数より多くあります。しかし、ほとんどが中小店舗で、上位10社のシェアでも20%に満たない状況です。それは支配的な強者のいない業界といえます。現在は大手薬局チェーンによるM&Aが積極的に行われていますが、現在の勢力図はまだしばらくは続くと思います」
――調剤薬局の課題はどこにあるのでしょうか。
増子社長「みなさんは薬をもらうのに『なぜ薬局に行かなければならないのか』『薬局に行く時間がもったいない』と感じることはありませんか? 処方された薬をもらえるのは薬局だけなので、『仕方がない時間だと割り切っている』のではないのでしょうか。
正直、私も薬局に行くのは面倒だと感じます。さらに今後、規制緩和で薬の受け渡しがインターネットでも可能になれば、大手通販会社も参入してくるでしょう。人の健康にかかわることですからクリアしなければならない問題はありますが、ネット供給が可能になると従来の調剤薬局では太刀打ちできなくなるのは必至です。
先日、ジェネリック薬で亡くなった事故がありました。直接の要因とは違いますが、やはり、飲んではいけない薬の組み合わせはあるのです。薬剤師はよく理解していますが、そのことを、薬を服用している方々にどう伝えていけばよいのか――。そういった調剤薬局の存在意義を継承しつつ、『いかに患者さまが便利に利用できるか』というテーマを突き付けられています」