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楽天の送料無料化問題 公取委「お咎めなし」の決着で零細出店者にくすぶる「不満」

   楽天グループが運営する通販サイト「楽天市場」の送料無料化をめぐり、公正取引委員会の調査が終わった。独占禁止法違反の疑いはあるが、楽天側が改善を約束したからお咎めなし――での決着となった。

   楽天が通販サイトという販売の場を提供しており、この優位な立場を背景に出店者に無料化を強制していたのではないか、というのがポイントだった。楽天側は「排除措置命令」という強制措置の回避を優先。一方の公取委は、法手続き的に困難もある排除措置命令という伝家の宝刀は抜かずに収めるのが得策と判断した。

   ただ、零細出店者に対して楽天が圧倒的に優位にある構図は変わらず、公取委は今後も監視は続けるとみられる。

  • 楽天の送料無料化問題、決着も零細出店者には不満が残った?(写真はイメージ)
    楽天の送料無料化問題、決着も零細出店者には不満が残った?(写真はイメージ)
  • 楽天の送料無料化問題、決着も零細出店者には不満が残った?(写真はイメージ)

零細出店者ら、楽天の「優越的地位の乱用」を主張

   この問題をめぐっては、J-CASTニュースは「楽天『送料ゼロ』が持つ遠大な視野 公取委はどう判断するか」(2020年1月16日付)、「巨大プラットフォーマーであり挑戦者 楽天『送料無料』騒動招いた『二重性』とは」(2020年3月17日付)などで報じてきたが、そもそもは楽天が2019年8月、楽天市場で3980円以上購入の送料無料化の方針を発表したのが事の始まりだ。

   20年3月から一律に実施すると出店者に通知したのに対し、一部の出店者が「一方的な負担の押しつけになる」と反対して「楽天ユニオン」を結成して公取委に独禁法違反(優越的地位の乱用)の疑いで訴えるなど反対の声が広がった。

   公取委は20年2月、一律・一方的な導入は独禁法違反の疑いがあるとして楽天に立ち入り検査を行い、制度の緊急停止命令を出すよう、東京地裁に申し立てた。

   これを受け、楽天は一律導入を延期し、公取委は地裁への申し立てを取り下げた。楽天は20年3月、希望しない出店者は対象から除外して制度をスタート。公取委は出店者が実質的に参加を強制されていないかなどの調査を続けていた。

   公取委が2021年12月6日に発表した調査結果によると、楽天の営業担当者が出店者に「楽天市場の検索結果で、参加している店舗の商品を上位に表示する仕様に変更する」「参加しなければ次の契約時に退店となる」などと示唆するケースが確認された。

   出店者が契約プランを変更する際、制度への参加を必須とした時期もあった。また、やむなく参加した店の中には、送料分を十分に商品価格に上乗せできなかったり、上乗せして客離れが起きたりして、利益が減った例があったという。

   公取委は、楽天のこうした対応が立場の弱い出店者に不当に不利益を受け入れさせる「優越的地位の乱用」に当たり得るとしている。

楽天が公取委と交わした「約束」

   調査結果を受け、楽天は公取委に改善措置と再発防止策を提示。「制度への参加、不参加について出店者の意思を尊重し独禁法に違反する行為を行わない」「参加しない店舗を不利にするような取り扱いを行わない」などと約束。楽天社員がこれらに違反した場合の処分規定を設け、苦情を受け付ける専用窓口も置くとした。

   楽天は「公取委からの指摘を真摯に受け止め、本施策の改善に努める」とコメントを出した。公取委と対立し、「排除措置命令」を出され、紛争が長期化し、イメージもダウンするリスクを避けたものとみられる。

   公取委は、楽天の改善措置で違反容疑は解消されるとして、調査を終えることにした。優越的地位の乱用の認定は難しいといい、たとえば営業担当者の発言が抵触しても、組織ぐるみと認定するには、指揮命令系統を含むち密な立証が必要で、訴訟で長期間争うことになりかねない。そうした負担を回避したいとの判断から、楽天の対応を是としたとみられる。

   ちなみに、これまでも2020年9月に、アマゾンジャパンが通販サイトでの値引き分の一部を納入元の業者に求めるなどした問題で、アマゾンジャパンが約1400社に計約20億円を返金することで行政処分を見送った例などがある。

   楽天が「送料無料」に突き進んだのには、三木谷浩史会長兼社長の強い思いがある。2020年春の導入に向け、新聞のインタビューなどで「(無料化しないと)どんどんビジネスが縮小して、最後は全部(アマゾンやアップルなどの)GAFAに食われちゃいますよ」(毎日新聞20年1月23日朝刊)という危機感を露わにしていた。

   特にアマゾンジャパンが「プライム会員」の送料を無料化し、非会員も2000円以上買えば無料にしており、こうした海外の強力なプラットフォーマー(ネット上の情報やサービスの基盤を提供する事業者)に対抗したいという三木谷氏の強い思いがあった。

楽天は生殺与奪の権を握る絶対的な存在

   物流について楽天は、自前の配送網「楽天エクスプレス」の構築に務めていたが、2021年5月末で打ち切り、その後、日本郵便と提携している。自前配送網の挫折の背景はさまざまな情報や憶測が乱れ飛ぶが、いずれにせよ、アマゾンジャパンが自前の巨大倉庫と配送網でコストを抑え、無料配送を進めているのに比べ、状況はさらに厳しくなった。

   楽天市場の5万5000出店者の92%が3980円以上無料に参加しており、逆風の中で着実に広げているが、今後の楽天の物流戦略がどう展開するか。特に日本郵便との提携の効果が注目される。

   GAFAと戦う「日本期待の星」ともいえる楽天だが、他になかなか販路がない力の弱い出店者にとっては、圧倒的な力を持ち、生殺与奪の権を握る絶対的な存在だ。零細な出店者ほど、他のサイトに乗り換えるなどは事実上、難しい。実際に、送料に限らず、さまざまな条件などで出店者には不満があるとされ、公取委が2019年2~3月に実施したアンケートで、楽天について「一方的な規約の変更があった」との回答が9割を超え、アマゾンジャパンなどを上回っていた。

   送料問題は今回、ひとまず決着したが、独禁法に詳しい専門家は「力の強いプラットフォーマーが一方的に契約などのルールを変更することはこれまでもあり、今後も監視していく必要がある」と指摘する。(ジャーナリスト 白井俊郎)