地球環境保全も地域との共生も「おいしい焼酎づくりの源泉」 霧島酒造 代表取締役専務の江夏拓三さんに聞く

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   焼酎づくりで知られる霧島酒造(宮崎県都城市)。そのおいしい焼酎づくりの源泉になっているのが、「自然環境の保全と地域社会との共生」だ。

   焼酎の原料であるサツマイモをエネルギーにしたバイオガス発電や電気自動車の導入など、地球環境保護や地域に根ざし、地域と共に発展していくための新たな活動について、霧島酒造株式会社代表取締役専務の江夏拓三(えなつ・たくぞう)さんに聞いた。

  • 「サツマイモから生まれるエネルギーを無駄にしない」と話す霧島酒造 代表取締役専務の江夏拓三さん
    「サツマイモから生まれるエネルギーを無駄にしない」と話す霧島酒造 代表取締役専務の江夏拓三さん
  • 「サツマイモから生まれるエネルギーを無駄にしない」と話す霧島酒造 代表取締役専務の江夏拓三さん

「サツマイモから生まれるエネルギーを無駄にしない」

――霧島酒造様のSDGsに対する考え方と、これまでの取り組みについて教えてください。

江夏拓三さん 「『サツマイモをエネルギーにして、サツマイモから焼酎を作る。そこで生まれるすべてのエネルギーを無駄にしない』。この思いのもとで霧島酒造のサツマイモリサイクル活動は始まりました。2014年、焼酎粕や芋くずをリサイクルしたバイオガスから電気を作ることに成功し、工場の電力として活用しています。リサイクルプラントをさらに強化して、『KIRISHIMA ECO FACTORY』という見学できる工場を造り、2019年にグッドデザイン賞を受賞しました。

大自然の恵みなくして焼酎づくりはできないからこそ、捨てずに使い、100%循環させていく方針です。2020年度時点で、さつまいも由来のエネルギーによりCO2排出量33%削減(2013年度比)を達成しました。これからも自然環境と調和し、地域社会と共生していくためのアクションを続けていき、2030年度までに工場・事務所のCO 2排出量ゼロを目指しています。さらに社用車約130台の電動化も、2030年度までに達成したいと考えています」

――焼酎粕のリサイクルとは、どのような活動なのでしょうか。事業化の狙いときっかけ、開発時のようすなども教えてください。

江夏さん「苦労の末にたどりついたのが『焼酎粕リサイクルプラント』なのです。
私が入社した45?46年前、製造現場では当時から焼酎粕の処理で困っていて、私は否定的でしたが、焼酎粕を燃やす施設を建て、焼酎粕を焼却するという方法も用いられました。当時の価格で建設費は1億円以上かかりましたが、半年もたたないうちに、イラン革命で石油の値段が高騰して、結局のところ焼却はやめることになりました。

それからいろいろと試行錯誤し、乳牛に飲ませると乳の出が良いということで、酪農家に無料で焼酎粕を提供することにしました。しかし、3?4年経った後に酪農用の飼料メーカーや協同組合から突然ストップがかかりました。この方法もあきらめるしかありません。

それで次に始めたのが土壌還元です。焼酎粕を畑にまいて耕すと、飼料になる植物が5番刈りまでできるほどよく育つので、非常に喜ばれました。ところが、これもある日突然に県の条例が変更され、焼酎粕を農地に撒くことができなくなってしまったのです。

結局、焼酎粕を処理する施設を自社で作らない限りダメだということになり、鹿島建設に協力してもらい両社で一緒に処理施設を造りました。それが、微生物を用いて焼酎粕からバイオガスを発生させる『焼酎粕リサイクルプラント』なのです」

サツマイモ発電の年間発電量は850万kWh

――何度もうまくいかない経験をされても諦めない精神は、どこから生まれるのでしょうか?

江夏さん「それはやっぱり、その人の育った環境でしょう。酒造メーカーは長男と次男さえいればいいということで、私は親から独立してお医者さんにでもなりなさいと言われて、関西に一人で暮らしていたんですよ。一人で寂しかったですね。でも、そういった逆境も長い目で見た場合、人生を乗り切るすごいバイタリティ、エネルギーになる。
なんでこうなったんだろうと悩みながら、映画を見たり、小説を読んだりして毎日を過ごしていましたが、結局、これはどうにかしないといけないということで、半年ぐらい、吉野にある修験道の道場『櫻本坊』へ行きました。般若心経を何百回どころか何千何万回も読むんです。そのことがやっぱり人を変えていくんですね。修行法というのは、集中力とか、発想力をといった力を蓄えます。
私も挫折の連続でしたから、ありとあらゆることをして実行していかないといけないと思っています。今の人はちょっとダメになると、『いやもうダメです』とか、『もうあきらめました』と言いますが、目的を決めたら、それにどういうルートでもいいから進んでいくしかない。だから、社員が壁にぶち当たったら、しっかりとサポートしていきます。焼酎粕の処理を担当するグリーンエネルギー部でも担当者を決めて、その人を中心に周りも一緒になって動かしています」
焼酎粕はすべての工場の合計で1日あたり約850トンにのぼる(写真は、霧島酒造の江夏拓三専務)
焼酎粕はすべての工場の合計で1日あたり約850トンにのぼる(写真は、霧島酒造の江夏拓三専務)

――サツマイモ発電は、どのくらいの発電が可能なのでしょうか。

江夏さん「焼酎を製造する際に出る焼酎粕は、すべての工場の合計で1日あたり約850トン(最大1200トン)、芋の選別時に生じる芋くずは、1日あたり約15トン。焼酎粕と芋くずを細かく破砕し、微生物によってメタン発酵させることで、バイオガスを生成します。そのバイオガスを、焼酎製造工程の燃料や発電に利用しています。
本社工場にメタン発酵槽(バイオリアクター、1基あたり容量280立方メートル)16基と、さつまいも発電用のガス発電設備3台を設置しています。発電機の合計出力は約2MW、年間発電量は850万キロワット時(kWh)で一般家庭2400世帯分に相当します。発電した電力は、九州電力に売電しています。
さらに、さつまいも発電の電力で走る社用車『さつまいもEV e-imo』を4台導入しました。導入したのは本田技研工業株式会社のEV『Honda e』で、さつまいもの『いも』と、電気自動車をイメージさせる『e(電気)』と『mobility(乗り物)』を掛け合わせたネーミングです。さつまいも発電の電力を利用できる普通充電器2基、急速充電器1基、計3基の充電スタンドを本社工場内に設置しました。また、2030年度までに社用車約130台を電動車に替えていく予定です」
霧島酒造の持続可能な焼酎造りを目指すプロジェクト『KIRISHIMA SATSUMAIMO CYCLE~さつまいもを、エネルギーに。~』の展開図
霧島酒造の持続可能な焼酎造りを目指すプロジェクト『KIRISHIMA SATSUMAIMO CYCLE~さつまいもを、エネルギーに。~』の展開図

――このEVも都城市と包括連携協定を締結して災害時の避難所における電源に利用できるよう、取り決めを交わしています。御社は地域と共にあることが重要なのですね。

江夏さん「地域と共にあるという会社として、工場を建てるにしても地域の人にも十分活用してもらうようにしています。霧島裂罅水も自分のところで独占するのではなく、汲みに来た人には無料で提供し、グランドゴルフ場も一般に開放しています」

逆境の中で生まれた「黒ッキリボール」

サツマイモ発電の電力で走る社用車「サツマイモEV e-imo」(写真は、左から江夏拓三専務、江夏順行社長)
サツマイモ発電の電力で走る社用車「サツマイモEV e-imo」(写真は、左から江夏拓三専務、江夏順行社長)

――最近、SDGs を私達も含めていろいろなところで取り上げていますが、御社がかなり前から「普通のこと」として繰り返している活動そのものがSDGsだったということですね。

江夏さん「以前、視察に行ったデンマークでは46%が風力発電です。海上に風力発電所があって、発想が違いますね。今の企業は根本的な発想を変えないと、これからの時代は生き抜かれません。従来の発想で何か努力すればいいとか、頑張ればいいとか、コツコツやればいいとか、そういうものでは追いつかないのです。
そこで、たとえば社員の通勤用のクルマ600台のEVへの切り替え支援。売り上げを上げない限りこれはできない。全社員一丸となって、そういったことを達成しましょうと言えば、研究開発や意欲が出てくるから、従業員に火がつくわけです。クルマ600台以上の効果があります」

――社員の通勤用のクルマ600台のEVへの切り替え支援を全部会社側で負担してでも、それ以上の利益を得るという、本当に先々を見ないと決断できない投資を次々されているのは、それはひとえに焼酎粕を宝だと思いながら走ってきたからでしょうか。

江夏さん「父が1996年に突然亡くなりましたが、途端に俺たちどうなるんだろうという感じになりました。そういう時はやっぱり、何か新たな発想とか行動が必要なんですね。
状況をしっかり認識したら、必ずその圧力で何かが生まれる。何とかなるんじゃないかと思っていては駄目なんです。この状況のときはこういうことを考えてこういう行動をしないといけないんじゃないかと、それは間違ってもいいんですよ。間違っても、こっちでやろう、こっちでやろうと、次々と変化させていくんです。
それを自分だけでやるのではなく、若者を巻き込んで考えて生まれたのが、黒霧島の炭酸割り『黒ッキリボール』です。この会社をどうにかせないかんと、もう危ない、と死ぬほど真剣に考え、黒霧島をどうしたらいいか、いろいろ提案がありました。当たり前かもしれませんが、こういう発案はやっぱり一番真剣に考えた人が一番いい答えを出すものです」

――ずっと社員の行動を待ってらっしゃって、それで進捗を聞くタイミングも、おそらく計算されているのですね。

江夏さん「本当に自主的に答えが出てくるように、ヒントしか与えていません。あるときはこれが正しかったようだけど、次の日もこれが正しいかというと、それはどんどん変わっていくんです。上司がこれしろ、これが正しいんだ、これに向かってやれ、というようなことはしません。
物事の成立の一番根本には、これが正しいってことはないんです。こうなったら、いや、もうちょっとこうじゃないか、いや、こうじゃないかと次々変化していく。それを若い人と楽しみながらやることが大事ですね。すると、とんでもなく良い発想になって、とんでもないアイデアになっているんです。その間に若者が育っているんですよ」

若手社員に「サツマイモ」のルーツを探る海外研修

霧島酒造の「サツマイモ発電」プラント
霧島酒造の「サツマイモ発電」プラント

――社員の方も実際にサツマイモのルーツを調べに海外まで行っているそうですが、社員教育においても若い人を積極的に登用されている理由を教えてください。

江夏さん「若い社員を育てないと企業は伸びていかないのです。当社は黒霧島を始めた1998年から若い社員をどんどん採用して、新鮮な会社にしようとしました。現在、社員数が約600人で、平均年齢は33歳です。きょうの記者発表会でも新入社員が司会をしていましたが、新人にも責任を負う仕事を任せており、海外事業部などでも20代の人たちが活躍しています。
一般的にはアジア圏内の出張は課長以上とか、ヨーロッパは部長にならないといけないとか、暗黙のルールがある会社もあるようですが、うちは新入社員でも世界中連れて行くんです。そこで、さつまいもの流通を見たときに、さつまいもが人類を作ってきたことが如実にわかるわけです。社員がいろいろな発見をして、それを会社に持ち帰る効果もありますね」

――常に長期的な視点で取り組んでいらっしゃいますが、すぐに結果が出ないにもかかわらず、そこですぐ決断ができるのはなぜでしょうか?

江夏さん「必ず天気の日が来るんですよ。『待てば海路の日和あり』といいますが、いつまでも悪いわけではありません。大変なことも起こります。どうしようもない泣きたいこともあります。もう誰か助けてくれ、ということもある。ただ、それを何とかみんなで協力していくと必ずいい流れが起こります。今やらなければ、いつやるんですか。それも半端に変えるのではなく、僕はダイナミックに変えなさいといいます。ダイナミックな発想をしてダイナミックに進んできたから今日がある。それができない人は、結果へ到達できません」

(聞き手 あわいこゆき)


プロフィール
江夏 拓三(えなつ・たくぞう)
霧島酒造株式会社 代表取締役専務。
1949年宮崎県都城市生まれ。早稲田大学商学部卒。77年霧島酒造入社。96年に兄の順行(よりゆき)氏が三代目社長に就任するとともに、自身も専務取締役に就任。その後、ヒット商品の本格芋焼酎「黒霧島」などを開発。2000年から現職。

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