逆境の中で生まれた「黒ッキリボール」
――最近、SDGs を私達も含めていろいろなところで取り上げていますが、御社がかなり前から「普通のこと」として繰り返している活動そのものがSDGsだったということですね。
江夏さん「以前、視察に行ったデンマークでは46%が風力発電です。海上に風力発電所があって、発想が違いますね。今の企業は根本的な発想を変えないと、これからの時代は生き抜かれません。従来の発想で何か努力すればいいとか、頑張ればいいとか、コツコツやればいいとか、そういうものでは追いつかないのです。
そこで、たとえば社員の通勤用のクルマ600台のEVへの切り替え支援。売り上げを上げない限りこれはできない。全社員一丸となって、そういったことを達成しましょうと言えば、研究開発や意欲が出てくるから、従業員に火がつくわけです。クルマ600台以上の効果があります」
――社員の通勤用のクルマ600台のEVへの切り替え支援を全部会社側で負担してでも、それ以上の利益を得るという、本当に先々を見ないと決断できない投資を次々されているのは、それはひとえに焼酎粕を宝だと思いながら走ってきたからでしょうか。
江夏さん「父が1996年に突然亡くなりましたが、途端に俺たちどうなるんだろうという感じになりました。そういう時はやっぱり、何か新たな発想とか行動が必要なんですね。
状況をしっかり認識したら、必ずその圧力で何かが生まれる。何とかなるんじゃないかと思っていては駄目なんです。この状況のときはこういうことを考えてこういう行動をしないといけないんじゃないかと、それは間違ってもいいんですよ。間違っても、こっちでやろう、こっちでやろうと、次々と変化させていくんです。
それを自分だけでやるのではなく、若者を巻き込んで考えて生まれたのが、黒霧島の炭酸割り『黒ッキリボール』です。この会社をどうにかせないかんと、もう危ない、と死ぬほど真剣に考え、黒霧島をどうしたらいいか、いろいろ提案がありました。当たり前かもしれませんが、こういう発案はやっぱり一番真剣に考えた人が一番いい答えを出すものです」
――ずっと社員の行動を待ってらっしゃって、それで進捗を聞くタイミングも、おそらく計算されているのですね。
江夏さん「本当に自主的に答えが出てくるように、ヒントしか与えていません。あるときはこれが正しかったようだけど、次の日もこれが正しいかというと、それはどんどん変わっていくんです。上司がこれしろ、これが正しいんだ、これに向かってやれ、というようなことはしません。
物事の成立の一番根本には、これが正しいってことはないんです。こうなったら、いや、もうちょっとこうじゃないか、いや、こうじゃないかと次々変化していく。それを若い人と楽しみながらやることが大事ですね。すると、とんでもなく良い発想になって、とんでもないアイデアになっているんです。その間に若者が育っているんですよ」