合理的な判断ができない中国政府が危なすぎる
一方、中国のエネルギー問題が今後、長く世界経済の大きなリスクになるだろうと予測するのは、東京財団政策研究所の柯隆(か・りゅう)主席研究員だ。「深層中国第3回『大規模停電からみた中国の政策決定メカニズム』」(12月17日付)で、驚くほど硬直な中国当局の政策決定の実態を、こう明らかにしている。
「中国国内のエネルギー事情に目を転じると、状況は必ずしも楽観視できない。中国の電源構成をみると、70%以上は火力発電であり、その大半は石炭火力である。中国における電力消費の弾性値は、エネルギー効率が低いことから、経済成長率以上に電力消費の伸び率が高い傾向にある。とくに、中国政府は電気自動車の普及に力を入れているため、これから電力消費の伸び率はさらに高まる可能性がある」
中国における爆発的なEV(電気自動車)の普及が、今後リスク要因になるかもしれないというわけだ。
「こうしたなかで、中国の電力事情の難しさを示す出来事が起きた。2021年10月、中国主要大都市で大規模停電が起きた。10月というのは東北部でも暖房の供給がまだ始まっていない時期である。それでも大規模停電が起きたのはなぜだろうか」
中国では、不足する石炭をオーストラリアやインドネシアから輸入してきた。ところが、その石炭輸入の道を中国当局は自ら断ってしまったというのだ。柯隆氏はこう続ける。
「昨年(2020年)コロナ禍が深刻化した際、オーストラリア政府は新型コロナウイルスの発生源についてきちんと調査すべきだと求めた。この指摘は北京を刺激してしまい、中国政府は即座にオーストラリアからワインとビーフ、そして石炭の輸入を停止した。要するに、オーストラリアに対する経済制裁が実施されているのである。
ワインとビーフの輸入を止めても中国人の生活はそれほど困らないが、石炭の輸入を止めてしまったため、中国国内で石炭が不足し、大規模停電を招くことになってしまった。換言すれば、中国政府のオーストラリアに対する経済制裁は自らを困らせてしまったことになる」
さらに中国政府の「硬直性」を示す現実を、柯隆氏が指摘する。
「大規模停電をもたらしたもう一つの遠因についても指摘しておきたい。中国では電力料金は自由化されていない。しかも、石炭や天然ガス、石油などの価格は高騰しているが、電力料金の改定が遅れているため、電力会社は発電すればするほど赤字が出てしまう。したがって、電力会社は赤字を削減しようとして発電量を減らそうとする。
ただし、平時のときに発電量を減らすと社会問題になるため、それはできない。一方、現在は習近平国家主席自らがCO2削減を呼び掛けているため、電力会社にとって発電量を減らす口実ができたことになる」
このように、大規模停電から見えてきたのは硬直的な電力料金や石炭の需給バランスが崩れた問題だけではない。問題なのは、中国政府の政策立案と政策執行過程で合理的な判断が出来ず、混乱が生じていることだと、柯隆氏は嘆くのだ。
「オーストラリアに対する経済制裁の実施自体は理解できるが、自らを困らせるような制裁は得策とはいえない。とくに、中国にとっては大規模停電が続いた場合、世界の工場として重要な役割を果たしてきたグローバルサプライチェーンの再編が促されてしまう。コロナ禍により、中国経済はすでに減速に転じており、雇用が厳しい状況にある。多国籍企業が生産ラインを海外に移転させてしまった場合、中国の失業率はさらに上昇してしまう恐れがある。
中国経済がさらに減速した場合、日本経済と日本企業にも大きな影響を及ぼすことになる。日本企業は中国に直接投資を行っており、日本経済は中国に依存している。中国における間違った政策立案は景気を一段と押し下げてしまう恐れがあるため、日本にとってもリスク管理を強化しなければならない」
と、中国に対して警戒を怠ってはならないと呼びかけている。