「予想外の人民元高と低成長のダブルパンチ」
エコノミストたちは、中国経済の現状をこう見ている。
中国人民銀行の利下げ決定の前にその動きを予測、中国の景気悪化に警鐘を鳴らすのが、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。「人民元高進行と構造改革と経済安定化の間で揺れ動く中国の経済政策」(12月17日付)で、中国当局にとって今回の利下げは、予想外の「人民元高」と「経済低成長」のダブルパンチが背景にあると指摘する。
まず、予想外の人民元高の問題だが――。
「足もとでは人民元高が急速に進んでおり、対ドルでの人民元は年初の水準を2%強上回り、2018年5月以来の高値圏にある。しかしその背景は必ずしも明らかではない。中国経済の成長鈍化が明確になっていることや、政府による民間企業への統制強化、中国恒大の経営危機によって海外投資家に大きな損失が生じる可能性が高まっているなど、いわゆる『チャイナリスク』の高まりは、海外から中国への資金流入には逆風であり、その面からは人民元安が進んでもおかしくない局面だ」
つまり本来、人民元安が進むはずなのに人民元高が進むという不思議な現象が起こっているのだ。この理由については、海外でコロナ禍の感染が拡大している影響などが考えられるが、はっきりしたことはわかっていない。いずれにしろ、中国当局にとっては、中国経済の成長鈍化をさらに促進させるため、まずい展開だった。
もう一つの予想外の低成長問題とは――。
「今年7~9月期のGDP(国内総生産)成長率が前年同期比4.9%と、予想を下回ったことは、当局の政策姿勢に修正を迫るものとなった。成長鈍化の主因は(恒大集団の経営破たんなど)不動産部門の不況であり、それを引き起こしたのは政府による統制強化である。コロナ問題を受けた経済の悪化から、中国はいち早く抜け出ることができた。
そこで、他国が新型コロナに苦しみ、経済が低迷している間に、長年の課題である中国構造問題、特に不動産分野での価格高騰、投機的行動を抑える構造改革に政府は乗り出した」
ところが、そうした政策は経済全体に予想外に打撃となってしまった。しかし、習近平国家主席が掲げる「共同富裕」の理念に基づく統制強化を撤回することはできない。構造改革と経済の安定化策のバランスをとることは、中国では長年の課題であるが、その実現は難しい。木内氏はこう結んでいる。
「景気情勢の悪化がより鮮明となった場合、政府は難色を示す人民銀行に対して、さらに大幅な金融緩和を強いる可能性が出てくる。政府の統制強化の矛先は、人民銀行のような公的機関にも及んでおり、それが金融緩和への強い強制力を生む可能性がある。
その場合、足もとの予想外の人民元高は、急速な人民元安へと一気に転じる可能性もあり、それに留意しておく必要があるだろう」