アムールトラとつきあう心得
最新の調査(2015年)では、日本全土の約39%にあたる15万平方キロに、480~540頭が生息していることがわかった。その10年前には423~502頭だったから、微増している。20世紀初頭には10万頭もいたから、いかに多くのトラが殺戮されたかがわかる。
先住民はトラを神聖視していたから、トラを狩りの対象にしていなかったが、ロシア人の狩人が入植してから、トラは狩りの最高のターゲットになった。高く売れるだけではなく、トラとの知恵比べ、命がけの勝負という高揚感が狩人をトラに対峙させたという。この説明を聞けば、狩人から保護者への「転向」も納得できる。
アムールトラとつきあう心得を書いている。ことのほか用心深く、人間の存在を感知すれば自分から避けてしまう。トラの存在を教えてくれるのは足跡だ。極東の森林でトラを見ることができれば、「奇跡」とまで書いている。そして、アムールトラが人間を襲うことはないとも。
日本のトラ文化にも多くのページを割いている。商標にトラを用いる企業は少なくない。タイガー魔法瓶やタイガー・ボード(吉野石膏)、和菓子の老舗「とらや」。ほかにも阪神タイガースや、映画の「フーテンの寅さん」、アニメのタイガーマスクなどが有名だ。
日本人がトラを知った起源も書いている。欽明天皇の時代、西暦545年に百済に遣わされた使者がトラの皮をもち帰ったことが、「日本書記」に書かれているという。生きたトラが日本に来たのは、宇多天皇の時代、西暦890年のことだという。
トラにまつわる故事や名言は多く、「実物よりもイメージとして身近な動物になった」と書いている。
トラは、「自然環境の健康状態を教えてくれる」存在だという。地球温暖化と森林破壊、トラは人間の未来を教えてくれるとも。
黄金と黒の縞もようのアムールトラの写真を見ると、その威厳に居ずまいを正したくなる。アムールトラにいつまでも生き延びてほしい、そう願わずにはいられない。(渡辺淳悦)
「トラ学のすすめ」
関啓子著
三冬社
1980円(税込)