「独身女性は出世を目指さないとダメなの?」というアラフォー女性の投稿が大炎上だ。上司に「縁の下の力持ちで働きたい」というと、「管理職を目指す気がないのか!」とハッパをかけられた。
一方、既婚女性が同じことを言うと「家庭との両立で頑張っているね」と高い評価を与える。独身だからこそ、気楽に働きたいという女性の願いは間違っているのか?
「私も同じ」という共感と、「仕事に無責任」という批判で賛否激論。専門家に聞いた。
「既婚子持ち女性VSシングル女性」の対立構図
――「独身女性は出世を目指さないとダメなの?」という問題で、シングル女性の中には「子持ち女性の時短のフォローに疲れて、バカバカしいから退職した」という意見があります。従来からある「既婚の子持ち女性VSシングル女性」の構図です。
川上敬太郎さん「その問題は、職場の業務体制構築が不十分である証拠でもあると思います。まだまだ、誰かが休むとそのしわ寄せが誰かにいくという業務体制になっている職場が多いため、『既婚の子持ち女性VSシングル女性』という対立構造が生じやすいのだと感じます。
これは、(1)出世願望がないことの是非(2)『縁の下の力持ち』はやる気がないのか(3)社歴に対する会社側の期待とのズレ(4)既婚か未婚かで会社側の評価が変わる(5)役職者の仕事がハード過ぎる――の問題点の(4)に関わってきます。家事や子育てを担っている女性は、家庭でも大きな負担を強いられています。しかしながら、職場は仕事をする場であり、そこで求められる成果自体は家庭と無関係です。
子育てなどで職場に歪みが生じてしまうのは業務設計上の問題が大きく、働き手の努力だけで改善できることではありません。既婚か未婚かという、仕事とは関係ない要素が評価を左右するとしたら、それは筋違いであり、差別的な対応だと見なされても仕方ないと考えます」
――一方で、投稿者に対しては「仕事に向き合う姿勢が無責任だ」「いつまでも同じポジションに居座るのは迷惑。会社側が要求してくる事情もわかる」という批判も多くありました。このことについて、どう思いますか?
川上さん「これは(3)の『社歴に対する会社側の期待とのズレ』に関わる問題です。社歴とともにポジションや業務難易度を上げていかなければならないという雰囲気は、日本が年功序列や定期昇給の制度を前提にしていることが関係しているからだと思います。そして、多くの働き手が、それを当たり前のこととして受け入れています。
その制度では、仕事内容が変わらなくても給与は勤続年数とともに上がっていきます。投稿者さんの職場でも、仕事を次の世代の社員に引き継いでもらわないと採算が合わないと会社側は考えている可能性があります。ステップアップを求めず、昇給などなくても構わないと考える投稿者さんのような人にとって、年功序列などの日本的雇用慣行は合っていないのだと思います」
会社と交渉して「ほどよい働き方」を探ろう
――川上さんなら、投稿者に対してどうアドバイスをしますか。
川上さん「投稿者さんの悩みは、もとを正すと、ご自身の希望と職場の人事システムとが合致していないことから生じているのだと思います。会社が人事システムを刷新し、上司や同僚の認識が変わらない限り、残念ながら今後も悩みがなくなることはないように思います。
一方で、投稿者さんがご自身の素直な欲求に従うことが決して悪いわけではありません。定期昇給は不要なので、今の仕事のまま続けさせて欲しいという要望を会社側に伝えてみるのも一つの方法かと思います。しかし、会社も例外に応じるのは簡単ではありません。契約社員やアルバイトなど、非正規と呼ばれる雇用形態へ切り替えを打診される可能性もあるでしょう。
会社の人事部門が親身になって相談に応じてくれるようであれば、自社の人事システムを確認しつつ、希望をかなえられる方法を検討してもらうのもよいと思います。
それはそれとして、与えられた職務に対してはしっかりと成果を出して応えていくことは社員として当然果たすべき役割です。希望をかなえられるか否かは別として、職務にはしっかりと取り組んでまっとうしていただきたいです。」
――思い切って自分の気持ちを率直に伝えて、会社側と働き方について交渉しようということですね。
川上さん「投稿者さんの悩みは、日本的雇用慣行が引き起こすジレンマから生じています。だから、同じ思いをしている人は日本中の職場にいると思います。投稿者さんの希望は従来の一般的な価値観とそぐわないため、批判的な立場をとる人も多いはずです。いまの職場が従来の一般的な価値観しか認めない体質だとしたら、今後も苦しい思いをしてしまうことでしょう。
正社員と呼ばれる働き方は、安定している半面、会社側が強い人事権を有している自由度の低い働き方でもあります。最近、職務や勤務地が限定的な働き方も出てきてはいますが、給与水準が低かったり、仕事内容が物足りなかったりするなど、まだ『程よい働き方』が実現できる選択肢として定着するには至っていない印象です。
投稿者さんの悩みを解決するためには、仕事に対する多様な考え方を受け入れて、『程よい働き方』が選択できる職場の数を世の中にもっと増やしていく必要があると思います」
(福田和郎)