「今どき大学卒で『家事手伝い』はアリでしょうか?」
就職もせずに家でゴロゴロしている娘の将来を案じる母親の投稿が大炎上になっている。
「家事手伝い」というとっくに死語になった昭和の言葉を使い、お見合い結婚の需要があるだろうかと悩んでいるからだ。
「そういうの、今はニートと言いますよ」「ホントに家事しているの?」。はたまた、若い世代からは「『家事手伝い』って『家事代行』のこと?」という疑問まで飛び出して......。専門家に聞いた。
習い事で忙しかった「家事手伝い」のお嬢様
話題になっているのは女性向けサイト「発言小町」(11月29日付)に載った「今どき大卒後に家事手伝いはアリでしょうか」というタイトルの投稿だ。
かいつまんで説明すると、こんなことが書かれている。
「我が家は平凡な会社員の家庭ですが、一人娘が美術系大学を卒業後コロナ禍で就職に失敗して、未だに家の中でゴロゴロしてます」「美大と言っても何か制作活動をする訳でもなく、学生の頃には一度もアルバイトすらせず、サークルなどにも入らなかったため友達も出来なかったみたいです」「私が学生だった頃は、一部の裕福なご家庭の子は卒業後就職せずに家事手伝いして、お見合いで結婚するケースも珍しくなかったのですが(中略)、娘に就職の話をすると部屋に閉じこもってしまい、あまりプレッシャーを与えることもできません」
投稿を読むと、家族収入はそれほど高くなく、夫の定年も近い。自分もこの先パートを続けられるのか分からない状況の中で、大学まで行って何もしない娘を養っていくことはできないという。そして......
「いっそ、お見合いでもして早く結婚して欲しいのですが、今どき家事手伝いの娘の需要はあるのでしょうか」
と悩みを訴えるのだった。
この投稿には、とっくに「死語」になっている「家事手伝い」という言葉の復活に驚きの声があがった。年配者からはこんな指摘が。
「60代半ばです。『家事手伝い』とか『花嫁修行中』とか、もう聞かなくなった言葉と思っていました。私が若い頃には、ニュースでも『家事手伝い』が肩書きとして通用していた時代があったのです。今はただの『無職』と表示されていますね。娘さん、大恋愛でもすれば需要はあるでしょうが、まずは社会に出なければ出会いもないでしょうね」
「私は50代ですが、従姉妹が大学を出て働かずに『家事手伝い』になった時、ひっくり返るくらいビックリしました。お金持ちのご家庭ではわりとあったのかもしれませんが、私に言わせれば、ただの無職。バブルの頃でもそう思っていましたから、まして今時。投稿者の娘さん、婚活しても需要はないと思います」
「かつてたくさんいた『家事手伝い』って、お茶、お花を習って、お料理教室にも通って家事全般がきちんとでき、着付けもできるようになって、お作法も習って...... と、割と忙しかったですよ。お仕事に行っていても、そういうお教室に通う人はとても多かったし、会社で定時後のお茶お花のサークルを用意しているところも結構ありました。娘さんが最低限の家事がきちんとできれば、お見合い結婚の需要はあると思います」
「『家事手伝い』? いやー、それは死語でしょ! ていうか今の時代、かなりまずいコトバですよ。『戦力外表明』しているのと同じですから。親自らが戦力外表明しているのに、お見合い話を持ってくる人がいるとでもお思いですか?」
自治体婚活支援の仲人「いまは無職と言います」
また、自治体の婚活支援のボランティアをしている人からは、こんな現状報告があった。
「自治体の結婚支援のボランティア仲人をしています。登録に来られる方で、『家事手伝い』という人はいらっしゃらないです。無職でも登録はできますよ。男性のほうで、無職の女性はちょっと、となればお見合いは成立しませんので、『家事手伝い』でもよいと思いますが、実際に家事はなさっているのでしょうか?お料理が上手、家事全般を引き受けている娘さんなら専業主婦で暮らせる結婚もありますよね」
と、婚活支援の仲人の立場から、実際に娘さんが家事をやっているのかどうか、大いに気になるようだった。
同様に本当に家事をやっているのかどうか、疑問に思う人が多かった。
「私は娘さんと同じ年代です。母はいわゆるお嬢様学校卒で、母にこの投稿を見せたら、『家事手伝いなんていなかった。お手伝いさんがいるのに家事手伝いなんて何をするの? おばあちゃん(母の母)の時代なら家事手伝いはあったかもね』と言っています。これだけ家電とコンビニがそろっているのに家事手伝いってホント、何をするのでしょうか?」
こんな回答者たちの疑問に対し、投稿者は追加の投稿で、こう書いている。
「『家事手伝い』と書きましたが、料理はできません。覚える気もないようです。人との関わりが苦手で人見知りが激しく、ご近所の方に挨拶もできない子のため、結婚の前にお付き合いできるのかどうか分かりません。
(何人かの回答者が、美人なら家事手伝いで婚活できますが? と聞いたことに対し)美人タイプではありませんが、中高生の時にはモデル事務所からスカウトされたことも何度かあります。本人は興味がないようです。まずは短期のアルバイトでもいいから、働いてほしいと願っています」
投稿者の心配に対して多くの人から、「手に職を持たせよう」「むしろ家事をスキルアップさせたら」「今はそっとしておいてあげたら」というさまざまなアドバイスが寄せられた。
「美術関連の就職はそもそもハードルが高いです。学部にもよりますが、Adobeソフトや3DCAD/CGのソフトなどが使えるのであれば、派遣に登録するのはいかがでしょうか」
「『家事手伝い』なら、それはそれで徹底的にやってもらえばよいのではないでしょうか? 私の会社に入社した新入社員に、お母様から家事をいろいろ教えこまれた子とまったく何もしてこなかった子がいますが、仕事に対してもかなりスタートから差がついてしまっています」
女性誌の読者モデルでは花形の肩書だったが...
今どき大学卒業後に「家事手伝い」はアリなのか、という論争について、J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。
――この投稿と回答者たちの反響を読み、率直にどのような感想を持ちましたか?
川上敬太郎さん「投稿者さんが娘さんを心配する気持ちは痛いほど伝わってきますが、それ以上に娘さんご自身の意思がどうなのかが気になりました。また、回答者さんたちの声は辛辣なものが多いように思いますが、投稿者さんや娘さんが置かれている状況に対する理解についてはさまざまだと感じました」
――今回、「家事手伝い」という死語になったキーワードがクローズアップされました。昭和の時代には「家事手伝い」は立派な肩書で、新聞記事でも普通に使われていたし、女性誌の読者モデルでも「お嬢様」のイメージが強いので、高校・大学の同窓会名簿でも、卒業後の進路について「家事手伝い」と書く女性がけっこういました。
川上さん「『家事手伝い』という肩書きは知っていますが、私の周囲では、『家事手伝い』と名乗る友人がいた記憶はありません。大学を卒業して20数年が経ちますが、友人女性たちはみなさん卒業後すぐに何らかの仕事に就いており、私の世代では、『家事手伝い』を名乗る機会そのものが非常に少なくなっていたように思います」
――「家事手伝い」について、川上さんが研究顧問をされている働く女性の実態を調べている「しゅふJOB総研」で調査したことはありますか?
川上さん「『家事手伝い』についての調査ではありませんが、『家事代行業』を含めて、消費者と働き手双方の立場から『家事』のニーズについて仕事と家庭の両立を希望する主婦層に調査したことがあります。
金銭負担を考慮せずに済むのであれば、子育てと仕事の両立のために利用してみたいサービスの1位は『家事代行』で56%と過半数でした。一方で、自分自身の家事や子育て経験を活かして、サービスとして提供したいというニーズについては、『家事代行』は4位で19%と2割にも及びません。
つまり、『家事』は利用者としてのニーズは高いものの、自らが『家事』スキルを提供する側になると人気は高くないのです。働く主婦にとって、家事がいかに負担であるかを、如実に物語る結果ではないかと思います。裏を返すと、それだけニーズが多い『家事代行』は働き手にとって、狙い目の職種だとも言えそうです」
「家事手伝い」と「家事代行」はどう違うの?
――そういえば、若い世代の回答者の中には、「家事手伝い」の意味がわからず、「家事代行とどう違うの?」と疑問に思った人も少なくありませんでした。
川上さん「今は夫婦共働き世帯の数が、専業主婦世帯の2倍以上に及びます。今の主婦層は『家事』だけに専念せず、外に出て稼ぐ仕事にも従事しているケースのほうが多くなっています。全体としては、圧倒的に就労志向の主婦のほうが多いと言えます。そのような時代の流れから、『家事手伝い』という肩書きは自然と聞かれなくなっていったのではないかと思います」
――今回、「家事手伝いはニート、無職ですよ。娘さんはホントに家事をやっているの?」と、その言葉を使った投稿者に対する批判の声が上がっています。
川上さん「『家事手伝い』という、最近では聞かれなくなった言葉がクローズアップされたため、花嫁修業のようなことをやっているのか? という質問が出るのだと思います。外に出て収入を得る仕事に就いていない以上、実質的には無職という肩書きの言い換えになってしまうのだと思います。
しかし、決して無職であることが悪いわけではないですし、何もせずニートと呼ばれる状況であったとしても、それが責められるべきこととは言えないはずです。その人が抱えている事情はそれぞれであり、どんな背景があるのかも踏まえず、一方的に責めたり批判したりする姿勢は間違っています。
一方で、娘さんの意思が見えてこないことには、違和感を覚えます。投稿者さんの悩みは、娘さんの人生を案じているのか、世間体や今後の生活など、投稿者さんご自身のことを案じているのかが今ひとつわかりにくいと感じます。投稿者さんに批判的な意見が寄せられるのは、娘さんの人生を案じているように見えて、実は投稿者さん自身にとっての心配ごとを娘さんに押しつけているように見えてしまうことも関係しているのではないでしょうか」
「大切なことは娘さんの意思を尊重すること」
――投稿者に対する温かい助言もあります。「資格を取得させよう」「いっそ母親がしっかり教えて家事をスキルアップさせては」などや、「放っておいてあげては」といったアドバイスです。
川上さん「大切なのは、娘さんご自身の意思を尊重することだと思います。娘さんの意思に耳を傾けることをせず、一方的に『資格を取らせる』とか『家事をスキルアップさせる』といったことをすれば、娘さんの意思を蔑ろにしていることになります。 その点、『放っておく』というのは一見乱暴な意見のようにも思いますが、他人の意見を一方的に押しつけるよりは、娘さんに任せるという意味で、意思を尊重したスタンスと言えるのかもしれません。
――川上さんなら、投稿者と娘さんに対してどうアドバイスをしますか?
川上さん「投稿者さんが娘さんを思う愛情は、投稿内容の中からもあふれ出ているように感じます。しかし、投稿者さんがしてあげたいことが、必ずしも娘さんにとって好ましいサポートになっているとは限りません。厳しい言い方をすると、投稿者さんの一方的な意思の押しつけであり、エゴかもしれません。だからこそ、まずは娘さんご本人の意思にしっかりと耳を傾けることです。
娘さんご自身がどうしたいと思っているのかが、投稿内容からは見えてきません。そのことが一番の問題です。どんな選択をしても、結果の良し悪しを予測できる人はいません。しかし、自らの意思で選択した事実は残ります。ご自身の人生ですから、自らの意思でこれから何をなすべきかを選択していただきたい。そのことが、今の娘さんにとって最も重要なことです」
(福田和郎)