寅年なので、虎にまつわる人名録を読んでみた【12月は、2022年をのぞき見する一冊】

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   2021年も残り1か月を切った。昨年来のコロナ禍でさまざまな活動が「自粛」され、人々は悶々とした生活を送っている。夏に開かれた東京オリンピック・パラリンピックの代表選手や、米大リーグのロサンゼルス・エンゼルス、大谷翔平選手の大活躍に胸が熱くなり、救われた思いだった。

   さて、来る2022年、干支は寅。2月には北京冬季オリンピック・パラリンピックが開かれる。世界は、日本の経済は? 人々の生活は......。12月は、そんな「2022年」や「寅」にまつわる一冊を取り上げたい。

   来年(2022年)は寅年だ。十二支の「寅」は虎を指す。犬や猫にかんする本は多いが、虎の本は圧倒的に少ない。そんな中で「虎の目にも涙」が目に入った。上方文化評論家の福井栄一さんが書いた虎・寅にゆかりの深い44人の人名録だ。

   「虎の目にも涙」(福井栄一著)技報堂出版

  • 2022年は寅年、阪神タイガースは優勝できるか!?(写真はイメージ)
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死して銅像まで残した「寅さん」

   福井さんは大阪を中心とする上方の芸能、文化の評論を手掛け、上方文化の新しい語り部として知られる。「上方学」「大阪人の『うまいこと言う』技術」などのほか、「イノシシは転ばない」「大山鳴動してネズミ100匹」と、十二支関連の著書もある。

   本書が取り上げるのは、加藤清正、渥美清からタイガーマスクまで、歴史上の人物、昭和の著名人、フィクションの登場人物など47人。それぞれの虎・寅にまつわるエピソードを紹介している。何人か紹介しよう。

   渥美清は、「寅が虎を売るはなし」として登場。映画「男はつらいよ」シリーズの主人公「フーテンの寅さん」こと車寅次郎は、渥美の畢生の当たり役である。寅さんの生業は、香具師。縁日や祭りで、日用雑貨品をたくみな口上で売りつける。

   第12話「男はつらいよ 私の寅さん」(1973年公開)では、虎の絵を売る場面があるという。ちょっと長いがこんな口上だ。

「どうぞお近くに寄って見てやってください。虎は死して皮を残す。人は死んで名を残す。私とて、絵ごころのない人間ではない。自分のいちばん好きな絵は、だれにも売り渡したくない。いっそのこと、わが家の庭にある土蔵の中に全部しまっておきたい。だが、私には生活というものがある。故郷にはかわいい女房・子どもが、口をあけて待っている。東京では、一枚千円、二千円をくだらない芸術品だが、浅野内匠頭じゃないけれど、腹を切ったつもりだ」

   論点をずらしながら絵を売るところまで持っていく話術が巧みだ。舞台の京成金町線 柴又駅前には、寅さんの銅像が立っている。「寅は死して、名のみならず銅像まで残した」と結んでいる。

猛虎の契約選手第一号は、怖かった

   上杉謙信として知られる上杉輝虎は「虎づくしの生涯」と紹介されている。享禄3(1530)年、越後の戦国大名・長尾為景に男児が誕生した。庚虎(かのえとら)の年だったので、虎千代と名づけられた。元服し、長尾景虎と名乗った。病弱な兄に代わり、19歳の若さで越後守護代となった。その後、関東管領上杉家の名跡と職を受けつぎ、上杉政虎と名乗った。次いで、将軍・足利義輝の一字をもらいうけ、上杉輝虎と改めた。

   宿敵・武田信玄との川中島の合戦は5度に及んだが、「景虎」「政虎」「輝虎」の名のもとに戦われた。少なくとも「謙信」の名での戦(いくさ)ではなかった、と書いている。

   勇猛果敢な攻撃ぶりから「越後の虎」と恐れられた。武神・毘沙門天の生まれ変わりを自称し、旗じるしにも「毘」の一字を用いた。毘沙門天の使獣は、虎だ。天正6(1578)年に49歳で急死した。「奇しくも、没年も寅年」。上杉謙信は虎づくしだった。

   虎にまつわる本なので、当たり前のように阪神タイガースにも言及している。取り上げているのは「猛虎の契約選手第一号」の門前真佐人(1917~1984)。大阪タイガース(阪神タイガースの前身)の創立時のメンバーの一人で、最初の契約選手だった。

   広島県出身。旧制広陵中学時代から強肩強打の捕手として活躍。入団は昭和10(1935)年。右投げ右打ちで、背番号は「17」。「激しやすい性格」「恐ろしいのは『地震・雷・火事・門前』と評されたという。「勝負へのあくなき執念とプレーへの真摯な態度の反映だったのだろう」と福井さんは書いている。

   「それにひきかえ」と昨今の選手をこきおろしている。「ブヨブヨと弛緩したからだで出場して三振やエラーを連発」と手厳しい。今シーズンはペナントレースで終盤まで優勝をうかがう位置につけたが、最後は2位に終わった。さらに不甲斐なさを印象づけたのはクライマックスシリーズ。3位の巨人に0勝2敗で敗れるという「ダメ虎」ぶりを発揮した。「寅年」の来年こそ、とファンは期待しているだろう。

リアリティに欠ける? トラの絵画や文学

   虎が野生で生息した中国には虎に関する話も多い。虎の皮を着た男が子どもを食い殺した話(「太平広記)、虎の出産を手伝った婦人の家に、その後獣の肉が再三届けられるようになった話(「捜神記」)、虎と素手で戦い、絶命させた「水滸伝」の豪傑・武松らが紹介されている。

   日本でも絵画や文学に虎をモチーフにしたものは少なくないが、毛皮を見て虎を描いた円山応挙をはじめ、どうもリアリティに欠けるようだ。それでもネコ科の代表として、虎は敬愛され、親しまれてきた。

   本書を読んでも動物としての虎についての知見は少ないが、文化的には親しまれる存在であることがわかる。

「虎の目にも涙」
福井栄一著
技報堂出版
1760円(税込)

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