2021年も残り1か月を切った。昨年来のコロナ禍でさまざまな活動が「自粛」され、人々は悶々とした生活を送っている。夏に開かれた東京オリンピック・パラリンピックの代表選手や、米大リーグのロサンゼルス・エンゼルス、大谷翔平選手の大活躍に胸が熱くなり、救われた思いだった。
さて、来る2022年、干支は寅。2月には北京冬季オリンピック・パラリンピックが開かれる。世界は、日本の経済は? 人々の生活は......。12月は、そんな「2022年」や「寅」にまつわる一冊を取り上げたい。
本書「経済がわかる 論点50 2022」は、みずほ銀行系のシンクタンク、みずほリサーチ&テクノロジーズが2021年から2022年の日本経済、海外経済、金融・マーケット、制度・政策、ビジネス・社会の5つの領域における50の論点を解説した一冊。コロナ禍からの正常化、回復への期待とともに不安が交錯する世界経済を徹底予測している。
「経済がわかる 論点50 2022」(みずほリサーチ&テクノロジーズ著)東洋経済新報社
脱中国の高いハードル
みずほリサーチ&テクノロジーズは、21年にみずほ情報総研、みずほ総合研究所、みずほトラストシステムズの合併により発足した。冒頭で、チーフエコノミストの太田智之氏が基調論文を発表。「2022年はポストコロナに向けた経済・社会の有り様を探る年」としている。
同社では、2021年、2022年の世界経済成長率をそれぞれ5.9%、4.2%と予測している。2022年は2021年に比べて減速する予測だが、世界経済の好不調の目安とされる3%台の伸びは上回る見通しだ。
世界経済・日本経済を見通すうえでは、米中対立の先鋭化によるグローバルサプライチェーンへの影響が重要な論点だという。だが、日本の脱中国に向けたハードルは高い。2019年の国連の輸出入統計によると、全4184品目のうち、1389品目で中国のシェアが50%を超えている。そのうち268品目は、中国のシェアが90%を上回る。
パソコンやゲーム機器、エアコンなどの家電製品のほか、水産物や野菜の加工品、フッ化水素や酢酸エチルといった化学製品も、その大半を中国からの輸入に依存している。
これらの品目の中国シェアを50%まで低下させるには、中国からの輸入金額のおよそ2割に相当する335億ドル(3.7兆円)を他国からの輸入または自国での生産に切り替える必要があり、相当の年月とコストが必要になる、と見ている。
「相互依存を強めるサプライチェーンの実態をしっかりと認識し、俯瞰的・客観的視座で米中対立をとらえることが肝要だ」と書いている。
企業収益が悪化する3つのリスク
多くの論点の中から、気になるものをいくつかピックアップして紹介しよう。まずは「国内景気」から。「ワクチン普及で経済活動は回復。GDPは2022年にコロナ禍前水準に」と予測している。疫学モデルを用いたシミュレーションを行い、2021年ほどの医療体制のひっ迫は回避できると試算している。だが、検査体制の拡充、ブースターショット、ワクチン接種証明の国内活用、抗体カクテル療法、重症病床の積み増しなどの政策を実施しない場合、緊急事態宣言は2022~2023年にかけて4回発令され、対人接触型サービス消費の低迷が続くと予想している。
自動車産業などを悩ませた半導体不足は、2022年には解消が見込まれる。設備投資も、堅調な輸出やサービス業の持ち直しがプラスに寄与し、緩やかな回復基調となる見込みだ。
一方、政府の資金繰り支援は縮小される見通しで、倒産リスクが顕在化する可能性もある。事業転換支援が重要な局面になると見ている。
企業収益は、製造業は138%とコロナ禍前を上回る一方、非製造業は87%と回復が鈍い。格差は大きく、「K字形」回復の構図となっている。2022年は非製造業も緩やかに回復するが、3つのリスクに留意が必要だ、としている。
1つ目のリスクは、交易条件の悪化だ。資源価格が高騰した結果、交易条件指数(=輸出物価指数÷輸入物価指数)は急激に悪化した。消費者物価には上昇の兆しがなく、企業は輸入コストの増加を十分に価格に反映できていない。
2つ目は、半導体不足などの供給制約の長期化だ。2022年半ばまで長期化した場合、生産・収益回復の足かせになる恐れがある。
3つ目は、新たな変異株の出現により、ワクチンの普及が遅れる新興国で感染が再拡大し、経済活動正常化の時期が遅れるリスクを挙げている。本書では、オミクロン株について言及していないが、オミクロン株の感染やその影響を見極める必要がありそうだ。
世界に遅れる日本企業の経営効率性
日本の株式市場は堅調に推移することを想定している。日本株のさらなる上昇への障害として、コーポレートガバナンスと日本企業の経営効率性が世界的にみて大きく劣後していることを指摘している。
海外投資家に受け入れられる適切なコーポレートガバナンスとともに、株主還元の強化、適切な投資による利益水準の向上が求められる。
海外経済は、米国経済、欧州経済、中国経済、アジア経済、新興国経済と細かく分析、記述している。また、これだけは押さえておきたいキーワードとして、プラットフォーマー規制、デジタル庁、量子コンピュータ、再生可能エネルギー、AI規制、ムーンショット、週休3日制、サステナブルファイナンス、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留技術)、宇宙開発、スマートシティ、デジタルエンターテイメントなどを挙げている。このうち、いくつ答えられるだろうか。
類書の中では読みやすく、わかりやすい。正月休みに勉強しようという人にオススメの一冊だ。
「経済がわかる 論点50 2022」
みずほリサーチ&テクノロジーズ著
東洋経済新報社
1980円(税込)