企業収益が悪化する3つのリスク
多くの論点の中から、気になるものをいくつかピックアップして紹介しよう。まずは「国内景気」から。「ワクチン普及で経済活動は回復。GDPは2022年にコロナ禍前水準に」と予測している。疫学モデルを用いたシミュレーションを行い、2021年ほどの医療体制のひっ迫は回避できると試算している。だが、検査体制の拡充、ブースターショット、ワクチン接種証明の国内活用、抗体カクテル療法、重症病床の積み増しなどの政策を実施しない場合、緊急事態宣言は2022~2023年にかけて4回発令され、対人接触型サービス消費の低迷が続くと予想している。
自動車産業などを悩ませた半導体不足は、2022年には解消が見込まれる。設備投資も、堅調な輸出やサービス業の持ち直しがプラスに寄与し、緩やかな回復基調となる見込みだ。
一方、政府の資金繰り支援は縮小される見通しで、倒産リスクが顕在化する可能性もある。事業転換支援が重要な局面になると見ている。
企業収益は、製造業は138%とコロナ禍前を上回る一方、非製造業は87%と回復が鈍い。格差は大きく、「K字形」回復の構図となっている。2022年は非製造業も緩やかに回復するが、3つのリスクに留意が必要だ、としている。
1つ目のリスクは、交易条件の悪化だ。資源価格が高騰した結果、交易条件指数(=輸出物価指数÷輸入物価指数)は急激に悪化した。消費者物価には上昇の兆しがなく、企業は輸入コストの増加を十分に価格に反映できていない。
2つ目は、半導体不足などの供給制約の長期化だ。2022年半ばまで長期化した場合、生産・収益回復の足かせになる恐れがある。
3つ目は、新たな変異株の出現により、ワクチンの普及が遅れる新興国で感染が再拡大し、経済活動正常化の時期が遅れるリスクを挙げている。本書では、オミクロン株について言及していないが、オミクロン株の感染やその影響を見極める必要がありそうだ。