「クーポンに経済効果なしは地域振興券で実証済み」
このように何が何でも「クーポンを配る」という岸田文雄政権の強硬な姿勢にエコノミストたちから批判の声があがっている。
「クーポンに消費を促す効果があると考えるのは政府の誤解だ」と、にべもなく批判するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
「臨時国会で紛糾する子ども給付の議論」(12月8日付)で、こう指摘する。
「政府は当初、全額クーポンでの給付を考えていたのではないか。それは、昨年の一律給付金などが、大半が貯蓄に回り、個人消費につながらなかったとする批判に応えるためだ。そこで、教育、子育て関連の支出に使えるクーポンで支給すれば、確実に消費に回ると考えたのだろう。しかしそれは誤解である。
本来、働いて得たお金で買おうとしていた教育、子育て関連の必要な商品をクーポンで買えば、その分浮いたお金が、貯蓄に回るだけの話である。期限があるクーポンを使うことで、教育、子育て関連の支出がいくぶん前倒しされる可能性もあるが、将来の支出を加えた支出総額は変わらない」
そして、子ども給付金の給付対象となる個人、世帯は、すべて現金で受け取ることを望むはずだ、として現金給付で行うことを主張した。
一方、「政府自体がクーポンに経済効果がないことを知っているはずだ」と疑問を投げかけるのは、上智大学准教授(財政学)の中里透氏だ。専門家による解説サイト「SYNODOS」に掲載した「現金給付の正しい届け方――各自治体の工夫で問題点は解消できる」(12月2日付)の中で、こう指摘する。
「鈴木俊一財務大臣からは『クーポン券でお支払いすることで確実に子どものために使っていただく。必ず消費をしていただく』との説明もなされているが、クーポン券の利用で浮いた分のお金は貯蓄に回すこともできるから、クーポン券であれば確実に消費が増えるということもない。実際、経済企画庁(当時)が1999年に行った地域振興券の利用実態調査によれば、交付された地域振興券の交付額のうち消費支出の増加に寄与した分は3割程度であったことが報告されている」
これは、経済対策としてクーポン券を使った前例だ。1999年に小渕恵三内閣が行った緊急経済対策を指す。全国の65歳以上の老齢福祉年金受給者と、15歳以下の子どもを対象に1人一律2万円の地域振興券(クーポン券)を配ったのだ。対象者は3100万人。その「消費支出効果」を当時の経済企画庁(現内閣府)が、支給者から9000人を抽出し、何に使ったかを調査した。
しかし、地域振興券によって新たに消費が喚起された割合は32%しかなかった。大半の人はクーポン券のおかげで使わなかった分を貯金したり、もともと買う予定だったものに使ったりしたからだ。
昨年(2020年)の国民1人あたり一律10万円の特別定額給付金の場合でも、各種調査によると、約7割が貯蓄に回り、約3割が消費支出だったとされるから、クーポン券と現金給付の「経済効果」はほとんど差がないことになる。
だから、中里透氏はこう主張するのだった。
「このようにクーポン券で給付を行うことには実質的な意味がないにもかかわらず、給付事務は煩雑なものとなり、経費が1000億円近く割高になる。これは子育て世帯に対する今回の給付金の予算額(1兆9473億円)の5%近い金額だ。クーポンによる支給をやめて事務費の増加分を給付金に回せば、今回の給付の対象から除外された世帯の子どもの半分近くに給付を行うことができる」
まさに「愚策の極み」というわけだ。