「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
「週刊東洋経済」(2021年12月11日号)の特集は、「定年格差 勝ち組シニアと負け組シニア」。働くシニアの「今」をさまざまなケーススタディで探っている。
2021年4月から70歳までの雇用が努力義務になった。実際に60歳定年で完全リタイアする人は少ない。「労働力調査」(総務省)によると、65~69歳の半数近くは働いている。雇用形態はパート・アルバイトが52.5%、正社員が23.5%、契約社員9.4%、嘱託7.1%となっている。
ミドルシニアの再活用制度で生き生き元エリートたち
「定年格差 勝ち組シニアと負け組シニア」特集では、保険や広告、人材サービス業界でミドルシニアの再活用が始まった、として元エリートたちの「奮闘」を紹介している。東京海上日動火災保険の須賀泰夫さん(60)は、会社が公募した「シニアお役に立ちたい」制度に手を挙げ、週5日、9時から17時まで勤務している。残業のない規則正しい生活に満足しているという。
同社の60~65歳までのシニア従業員は約500人いるが、多くは定年前と同じ部署で雇用延長により働いている。須賀さんのように新たな職場でチャレンジしようという人はまだ少ないという。同社では公募ポストを拡大する予定だ。
会社を退職して個人事業主として固定報酬を得ながら起業できるのが、電通が21年から始めた「ライフシフトプラットフォーム」だ。鹿児島県の山間部に移住した岩井寿人さん(46)は、地元で地方創生の仕事をしたいと手を挙げた。徳之島で闘牛から引退した牛の熟成肉の商品化などをめざしている。まだ収入は少ないが、10年間は電通時代の給与を基に固定報酬が支払われるので、「ゆっくりとマネタイズできる仕事をしたい」と話している。
大企業の中には働く意欲を応援しながら収入を確保する新たな制度を導入するところもあるようだが、まだ少数派のようだ。雇用延長の場合、思いどおりにならないことも多いようだ。同誌が7000人を対象に行ったアンケートには、
「今まで営業だったが、部署が異動になり、社内便の配達係になった」(64歳)
「定年になっても自分の後任がいないため、モチベーションが下がっている」(62歳)
などの声が聞こえてくる。
このほかに、「失敗しないシニア起業術」「中高年の副業と学び直し」「65歳からのハローワーク」など、シニアを応援する記事が詰まっている。
10年前は「早期退職」の募集一色だったが、最近は定年延長に関連するさまざまな制度が出てきた。働くシニアにとって選択の幅が広がったのはいいことだろう。
パート2では、日本でも始まったジョブ型雇用について、日立製作所、富士通の取り組みを紹介している。米国では職務がなくなれば解雇も可能だから、日本でも定年制は意味がなくなるかもしれない。定年延長とジョブ型雇用、この二つがどのように日本企業を変化させてゆくのか、注目したい。
決算書でわかる各社の業績
「週刊ダイヤモンド」(2021年12月11日号)は、人気企画になった「決算書100本ノック!」の2022年版を特集している。
損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)という財務3表のおさらいの後、さっそく各社の事例を基に、財務の勘所に切り込んでいる。
最初に取り上げられているのが、コロナ禍で業績が悪化した航空大手のANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)だ。両社とも2期連続大赤字を見込む。
ANAHDは業績悪化企業の宿命として、「財務の三大恐怖」に直面するという。第1の恐怖は「固定資産の減損」だ。現時点で減損損失は計上していないが、計上した場合は、将来の収益力が見込めないということで第2の恐怖に連鎖し得る。それは「繰延税金資産の取り崩し」だ。現時点で取り崩しに至ってないが、ひとたび取り崩しとなれば、自己資本比率はさらに低下する。
第1と第2の恐怖が現実となれば、最後の第3の恐怖「融資の契約条項(コベナンツ)に抵触する」という事態が心配される。財務健全性が維持できなくなると、返済期限前でも金融機関から資金の即時一括返済を求められたりすることだ。
ANAHDはJALよりも有利子負債が大きく、それがコロナ禍で膨らんだ。財務体力が劣る分、JALよりも3つの恐怖に脅かされるのだ。
携帯電話事業の赤字で財務悪化が隠せない楽天グループも俎上にのぼっている。21年1~9月期の連結財務諸表を見ると、モバイル事業は3025億円の赤字だ。キャッシュフローのマイナスも3898億円に達した。日本郵政などから2400億円の出資を得たが、自己資本比率は7.2%の低水準で有利子負債は過去最大になっている。取り得る選択肢は、資本増強、資産売却、社債発行の3つだが、2つ目の楽天銀行のIPOが有力と見られるが、簡単ではないようだ。
図表とチャートで各社の財務内容を分析しており、抱えている問題がひと目でわかる。見出しをざっと挙げるだけでも、この1年の各社の動きを把握できる。
野村ホールディングス「またも米巨額損失で大ゴケ 野村の『二大リスク』が顕在化」
みずほフィナンシャルグループ「システム障害8回も純利益8割増 子会社売却の『カラクリ』」
セブン&アイ・ホールディングス「北米の『ガソリン価格』が命運握る?巨額買収の『脱炭素』リスク」
セブン&アイについては若干解説が必要だろう。買収した海外事業の成長が大きく寄与したが、米セブン-イレブンの売り上げの約5割がガソリンなのだ。業績の振れ幅も大きくなり、「脱炭素」リスクにもさらされているという説明だ。
決算書には、ふだん経済ニュースには表れない情報が満載だ。決算書の見方を学びながら、各社の動向がわかる「決算書100本ノック!」特集から目が離せない。
海外資産も国税庁が把握している
「週刊エコノミスト」(2021年12月14日号)の特集は、「税務調査 あなたの資産も丸裸」。コロナ禍で実地調査に制限があるなか、デジタル化や文書や電話での接触拡大で、調査の効率化・重点化が進み、税務調査の精度は上がっているという。悪質な不正だけでなく、節税のやり過ぎにも厳しい姿勢で臨む税務当局の動きをリポートしている。
DX(デジタルトランスフォーメーション)で税務調査の高度化が進んでいる。マイナンバーや法人番号を基に納税者から申告された内容とマッチングし、効率的に誤りを把握する「申告内容の自動チェック」、金融機関に対する預貯金の照会などのオンライン化、将来的にはAIを活用した申告漏れの可能性が高い納税者の判定も視野に入れている。
過剰な節税への懲らしめの例として、タワマンを舞台にしたある裁判を紹介している。路線価による評価ではなく不動産鑑定による評価に基づく課税を争った裁判で、東京地裁に続き、20年6月の東京高裁でも国税側が勝訴した。
相続人の評価は約3億3400万円だったが、国税側は不動産鑑定を基に約12億7300万円と評価した。約4倍の乖離があり、国税庁は路線価以外の時価を適用する通達第6項を適用し、相続人に約3億円の追徴課税を行い、裁判になっていた。
被相続人はマンション購入費用に銀行から約10億円を借り入れて相続税の節税を図ったが、これが通用しなかったのだ。
公認会計士・税理士の高鳥拓也氏は、86か国・地域との情報交換が端緒となり、「未申告の資産」が標的になる、と警告している。19年9月末、約206万件の日本居住者の海外口座情報が国税庁に提供され、その口座残高は約10兆円にのぼるという。
海外投資=節税はもはや幻想であり、これまで見過ごされていた海外資産に税務調査が入るのは時間の問題と見ており、過去に申告漏れの海外資産や海外所得がある場合は、自主的に過去分の修正申告、および国外財産調書を提出することを勧めている。
来年からスタートする電子取引のデータ保存の義務化について、元国税調査官・税理士の松嶋洋氏は、経理実務はもちろん、税務調査対応も大きく変わるため、早急な準備を、と書いている。
2022年1月から法改正により、電子データをプリントアウトして保存することが認められなくなる。真実性の確保の要件を満たす方法で、かつ一定の方法で検索できる形で、保存する義務が生じることになった。この負担増を嫌い、紙ベースの取引に戻す動きもあるという。
評者が知る企業でも、この対応をどの部署が行うかで社内で押し付け合いが行われている。あまり広く知られていない案件なので、混乱は必至だ。(渡辺淳悦)