海外資産も国税庁が把握している
「週刊エコノミスト」(2021年12月14日号)の特集は、「税務調査 あなたの資産も丸裸」。コロナ禍で実地調査に制限があるなか、デジタル化や文書や電話での接触拡大で、調査の効率化・重点化が進み、税務調査の精度は上がっているという。悪質な不正だけでなく、節税のやり過ぎにも厳しい姿勢で臨む税務当局の動きをリポートしている。
DX(デジタルトランスフォーメーション)で税務調査の高度化が進んでいる。マイナンバーや法人番号を基に納税者から申告された内容とマッチングし、効率的に誤りを把握する「申告内容の自動チェック」、金融機関に対する預貯金の照会などのオンライン化、将来的にはAIを活用した申告漏れの可能性が高い納税者の判定も視野に入れている。
過剰な節税への懲らしめの例として、タワマンを舞台にしたある裁判を紹介している。路線価による評価ではなく不動産鑑定による評価に基づく課税を争った裁判で、東京地裁に続き、20年6月の東京高裁でも国税側が勝訴した。
相続人の評価は約3億3400万円だったが、国税側は不動産鑑定を基に約12億7300万円と評価した。約4倍の乖離があり、国税庁は路線価以外の時価を適用する通達第6項を適用し、相続人に約3億円の追徴課税を行い、裁判になっていた。
被相続人はマンション購入費用に銀行から約10億円を借り入れて相続税の節税を図ったが、これが通用しなかったのだ。
公認会計士・税理士の高鳥拓也氏は、86か国・地域との情報交換が端緒となり、「未申告の資産」が標的になる、と警告している。19年9月末、約206万件の日本居住者の海外口座情報が国税庁に提供され、その口座残高は約10兆円にのぼるという。
海外投資=節税はもはや幻想であり、これまで見過ごされていた海外資産に税務調査が入るのは時間の問題と見ており、過去に申告漏れの海外資産や海外所得がある場合は、自主的に過去分の修正申告、および国外財産調書を提出することを勧めている。
来年からスタートする電子取引のデータ保存の義務化について、元国税調査官・税理士の松嶋洋氏は、経理実務はもちろん、税務調査対応も大きく変わるため、早急な準備を、と書いている。
2022年1月から法改正により、電子データをプリントアウトして保存することが認められなくなる。真実性の確保の要件を満たす方法で、かつ一定の方法で検索できる形で、保存する義務が生じることになった。この負担増を嫌い、紙ベースの取引に戻す動きもあるという。
評者が知る企業でも、この対応をどの部署が行うかで社内で押し付け合いが行われている。あまり広く知られていない案件なので、混乱は必至だ。(渡辺淳悦)