国の税制改正議論を取り仕切る自民党税制調査会内で大きな「異変」が起きている。衆院選や自民党の役員人事などをめぐり、絶大な影響力を持つ「インナー」と呼ばれる非公式幹部会の顔ぶれが大きく変わったためだ。
2021年は衆院選の影響で11月下旬の税制改正議論の本格化から、わずか1か月足らずで2022年度税制改正大綱を取りまとめなければならない短期決戦。にもかかわらず、官邸と自民党間で、税調をめぐる綱引きも始まっている。
「インナー」メンバー、8人中5人が新任
首相官邸が主導する予算編成作業と異なり、税制改正は例年、自民党税調が主導する。そこで事実上の決定権を握っているのが、税制に詳しいベテラン議員で構成される「インナー」だ。
しかし、税調会長だった甘利明氏は岸田政権発足に伴い党幹事長に就任したものの、衆院選の小選挙区で議席を守れず「比例復活」に甘んじた結果、幹事長を辞任した。インナーには残ったものの、税調会長はすでに退いており、影響力の低下は否めない。
税調会長を長く務めた野田毅氏、同じくインナーメンバーだった石原伸晃氏は、いずれも衆院選で敗北し議席を失っている。塩崎恭久氏は引退した。
さらに細田博之氏が衆院議長に、林芳正氏が外相に、また根回しや実務を担っていた後藤茂之氏は厚生労働相、それぞれ就くなど、櫛の歯が欠けるようにインナーメンバーがいなくなり、新体制のインナー8人中、半分以上の5人が新任という異常事態となっている。
税制改正議論は、かつてインナーの独壇場で、首相ですらおいそれと口出しできない「聖域」とされてきた。
2015年には安倍晋三首相が消費税の軽減税率導入に反対した当時の野田毅税調会長の更迭に踏み切るなど、税調への官邸の「介入」は大きな軋轢を生んできた。
税調DNAをもつ宮沢会長VS「安倍・高市」財政拡張派
ただ、岸田文雄首相は今回のインナーの顔ぶれ変更を契機に、官邸の主導権を強めたいと目論んでいるようだ。岸田氏が新たに税調会長に据えたのは、岸田派の宮沢洋一・元経済産業相。岸田氏とはいとこ同士で、地元も同じ広島という最側近だ。
宮沢氏は税調会長就任早々、岸田氏が総裁選で打ち出しながら、首相就任後に発言を後退させた金融所得課税の強化について、今回の税制改正では議論を見送る方針を示した。首相への援護射撃とみられる。
一方で宮沢氏は大蔵官僚(現財務省)出身で、伝統的に財政再建を重視するという税調のDNAを持つとされる。コロナ禍に伴って導入・強化された住宅ローン減税や固定資産税の特例措置を、いずれも縮小する方針を示すなど、甘利前会長時代の「緩和路線」からの方針転換を目指している。
ただ、こうした宮沢氏の動きが安倍元首相や高市早苗政調会長ら財政拡張論者が幅をきかせる自民党内を刺激している。党内からは「経済対策を打ち出すなど景気対策を最重視しているなか、税調は何を考えているんだ」と不満が漏れる。
「重鎮が一斉に去ったインナーにもはや力はない」(与党幹部)との声も出ており、インナーが党税調を牛耳り、党全体にもにらみをきかせるという、これまでの体制を維持するのは難しいとの見方が出ている。
宮沢氏は12月10日前後には税制改正大綱を取りまとめたい考えだが、官邸と自民党の思惑が入れ乱れる中、税制改正論議が予定どおり進むかは見通せない状況だ。(ジャーナリスト 白井俊郎)