企業の存続は自然界の仕組みと同じ
――起業するときに大事なことはなんでしょう。白石社長の考える「事業の掟」を教えてください。
白石社長「誰かの役に立っていない事業は、短期的には儲けることができたとしても、淘汰されていきます。誰かの役に立っているから存在が許されているのです。これは自然界の仕組みと同じですね。たとえば、バクテリアは、なにかに必要だから、その種の存続があるのです。必要ないものが淘汰されていくプログラムが、自然界にはあります。ダーウィンの進化論です。人間も自然界の一部であって、その人間が企業に勤めて働いているのですから、その中で価値の提供できない企業は潰れていくのです。逆に『潰れたら困る』と思われる会社は絶対潰れません」
――白石社長の言う「役立つ企業」とは、どのような企業でしょうか。
白石社長「役に立つというのは時代によって違ってきます。たとえば20年前に作った会社はその時代においては役割が与えられたので成長したとします。ところが20年のあいだに社会環境が変わって、存続していられなくなるような立ち位置になると、その会社は潰れていくのだと思います。
自分の会社が役に立っているかどうかは、会社をやっていればわかります。だから、新商品を開発したり業態転換をしたりするのです。
たとえば今、自動車部品メーカーの人と話をすると面白いですよ。EV(電気自動車)化で、自動車部品メーカーはこのままではエンジンがなくなっていくのでマズイということがわかっています。そのため、電気の世界に行ったりとか、宇宙だったりとか、死に物狂いでさまざまなものを設計して開発しています。これから、ありとあらゆるところで、そのような現象が起きてきます。時代に応じて、ニーズを汲み取っていける会社だけが存続が許されるのです」
――まだまだ、日本では起業をリスクと捉えている人が少なくありません。
白石社長「崩れつつありますが終身雇用制は、昭和時代の、しかも戦後からのことです。高度成長期になり、終身雇用で定年退職まで会社で働いていればそれなりの見返りがあったのです。半面、人余りの時でもあり、もし会社を辞めてしまうと働き口も失ってしまうと考える人も多かったと思います。さらに起業ともなると、リスクを先に考えるようになってしまった。しかし、日本でも戦前は普通に起業されていましたし、起業をリスクとして考えるのは世界的に見ても日本だけなのです。アメリカでは人が足りない状態なので、失敗してもまた就職すればよいと考えています。日本だけが新卒採用、終身雇用制、人余りの中で、『起業リスク=失業リスク』となってしまったのです。
では、今はどうでしょう。空前の人手不足です。コロナ禍による混乱はあったとしても、そのような状況の中で、優秀な学生であればあるほど時代認識ができますから、サラリーマンにはなりません。一番賢い優秀な学生たちは会社を創っています。その次の層はそういった起業家が創った会社に入っています。そして、さらにその次の層は大企業に所属します。あるいは外資系企業のエンジニアなどの、次のステップへ上がれる、起業しやすい企業に就職しています。いずれにしても、そもそも大企業志望でなかったり、大企業に入っても、すぐ辞めてしまうのは特別なことではないのです。つまり、終身雇用で定年まで過ごすのが『成功のモデル』だった時代は終わっているのです。終身雇用世代の人と若者とでは時代に対する認識が、まったく違うのです」