オフィスをめぐり、相反する動きが顕在化している。
新型コロナウイルス禍でテレワークが拡大するのに伴い、オフィスを縮小する動きが広がっていることは、知る人も多い。東京都心のオフィスの空室率は感染拡大が始まった2020年春以降、上昇が続いたままだ。一方、「オフィスにはテレワークに代えられない機能がある」と、オフィス回帰も目立ってきている。
上昇する東京都心の空室率 10月は6.47%
オフィス仲介大手の三鬼商事が発表した2021年10月時点の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス平均空室率は、前月比0.04ポイント上昇の6.47%で、14年5月以来、7年5か月ぶりの高水準になった。
空室率は5%が市場の好不調をうかがう目安で、これを越えると賃料が下落する可能性が高まると言われている。実際、11月の同5区の平均賃料は同0.26%下落して2万804円だった。前年同月に比べると1630円(7.27%)も下げており、「負のスパイラルに陥らないか」という懸念も生じている。
空室率が上昇している大きな要因は、コロナ禍で在宅勤務が普及したことなどにより、大企業を中心にオフィスの縮小や拠点集約の動きが相次いでいることだ。コロナ禍以前は進まなかったテレワークだが、多くの企業はコロナ禍を機にやむなく導入。一度やってみれば大きな問題はないと判明し、働き方の一つとして定着してきた。
その結果、不要になったオフィスを縮小したり、この機会に使いやすいよう整備しようという機運が強まっているのだ。代表的な動きはZホールディングス傘下のヤフーだ。同社はコロナ禍で出社率を約1割に抑えてきたが、今後も在宅勤務を広く認めることとなり、都内のオフィスを約4割縮小することを決めた。
コミュニケーションの中にイノベーションはある
ただ、全体にこのままオフィスの需要が減っていくとも言い切れない。ある企業関係者は「テレワークの環境は人によって異なり、必ずしも生産性が上がるわけではない」と話す。日本の場合、家が狭く、個室をもたない人も多いため、誰もが在宅で効率的に働けるとは限らない。コロナ禍で経営状況が悪化している企業も多く、社員の自宅の通信環境を整えるための費用を負担する余裕はない、という経営者も多い。
さらに、オフィスの欠かせない機能に気づいたという声も最近、強まっている。「リアルな場で社員がコミュニケーションを深める中でこそ、イノベーションにつながるアイデアが生まれる」と話すIT関係者もいる。オフィスでの何気ない会話の中にビジネスのヒントがあり、それはテレワークには期待できないものだというのだ。
米IT大手のグーグルは、出社と在宅を組み合わせた「ハイブリッド型」の新しい働き方を導入する方向だ。
コロナ禍を機に、オフィスの意味が根源的に問われている。今後は、オフィス勤務だけ、テレワークだけ、という単純な働き方ではなく、さまざまな目的や機能に応じた多様な働き方が広がっていく可能性があるようだ。(ジャーナリスト 済田経夫)