原油価格の予想外の下落が「神風」を呼び込んだ
日本ではどう見ているのか。エコノミストの中には、「オミクロン株」の登場が、世界経済の脅威になるどころか、むしろ株価の追い風になるかもしれない、と見る人が少なくない。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏もその一人だ。「変異株出現でグローバル金融市場のインフレ・利上げモードが一変」(11月29日付)で、こう指摘する。
「『オミクロン株』の出現は、世界の金融市場を大きく動揺させ、そのモードを一変させた。直前までインフレ懸念と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ(政策金利引き上げ)前倒し観測に金融市場は支配されていた感が強いが、それが一日にして吹き飛んだ感じである。
1987年10月に起こった株価急落、いわゆるブラックマンデーは、世界にくすぶっていたインフレ懸念と主要国での金融引き締め観測を一気に沈静化させたが、それと似た構図である」
と、世界的な大暴落を引き起こした「ブラックマンデー」と比較する。しかし、今回はさほどの大混乱は起こっていない。それは高騰していた原油価格が予想外に下落したためだ。
「市場の動きで非常に注目したいのは、原油価格の急落である。11月26日のWTI原油価格は、1バレル78ドル台から68ドル台まで10ドル程度も一気に下落する劇的な展開となった。変異株(オミクロン株)により経済活動が打撃を受け、原油需要が落ち込むとの見方が強まったためだ。これによって、金融市場のインフレ懸念はかなり抑えられることになった。日本では同時に円高も進んだことから、悪い円安懸念、物価高懸念も後退しただろう」
現在、FRBがインフレを懸念し、いつテーパリング(量的緩和の段階的縮小)を加速させるか、市場は注目していた。しかし今回、図らずもオミクロン株の恐怖によって原油価格が急落した結果、一気にインフレ懸念が遠ざかり、FRBは利上げを急がない可能性が高まったというわけだ。
木内氏はこう続ける。
「オミクロン株の出現を受け、(FRBが利上げに踏み切る)時期は後ずれするとの観測が、今後金融市場では強まる可能性が考えられる。その過程で、長期金利の低下とドル安円高が進むだろう。ちなみに筆者は、FRBの利上げ開始時期は2023年と考えている。
オミクロン株が感染リスクを大きく高める可能性が高まれば、世界的に株価は一段と下落しよう。当面はそうした動きが予想される。しかし、変異株への強い警戒が次第に薄れていく一方、インフレ懸念が従来ほどには高まらない場合には、FRBの利上げ先送り観測が市場に定着し、それが株価に追い風となる可能性も考えられる。
世界的にインフレ懸念が高まり、FRBの利上げが早まる方向となれば、世界的に株価に顕著な下落圧力となる可能性があった。この点から、今回の金融市場の大きな調整は、株価にとってはむしろ安定材料となる『良い調整(good correction)』であった可能性もあるだろう」
ちょうど世界的に株価が下落しそうな時期に、オミクロン・ショックが「神風」のように吹いた。その結果、株価は安定するし、日本経済にとっても「悪い円安」がなくなり、「いいことづくめ」になりそうだというのだ。