ガソリンスタンド消滅、歯止めかからず...... 経営者の高齢化、クルマ離れ、とどめを刺すのは脱炭素!(鷲尾香一)

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   ガソリンスタンドが消滅している。

   すでに、全国のガソリンスタンド数はピークの1994年度末から半減している。そのうえ、世界中が脱炭素に動き始めたことが、「強烈な逆風」となっている。

  • ガソリンスタンドが激減している……(写真はイメージ)
    ガソリンスタンドが激減している……(写真はイメージ)
  • ガソリンスタンドが激減している……(写真はイメージ)

ピーク時の1994年末から半減!

   資源エネルギー庁によると、 2020年度末の全国の揮発油販売業者数は1万3314社で前年度末比521社も減少した=表1参照。

   ここ10年間でもっとも減少数が多かった2013年度の1066社に比べれば、小幅な減少にとどまっているが、それでも減少に歯止めはかからない。

   揮発油販売業者数の減少に伴い、ガソリンスタンド数も2020年度は前年度末比632か所減少し、2万5か所となった。

   ピークだった1994年度末の6万421か所に比べると52.0%も減少している。2015年度までの毎年度1000か所以上の減少に比べれば、小幅な減少にとどまっているものの、26年連続で減少している=表2参照。

   ガソリンスタンドの減少にはさまざまな要因があげられる。1990年代には石油製品の輸入自由化により価格競争が激化し、中小の揮発油販売業者数が経営するガソリンスタンドが次々と姿を消した。

   加えて、ガソリンスタンド業界も経営者の高齢化や後継者不足、労働者不足が廃業に拍車をかけた。

   また、若者のクルマ離れによる自動車保有台数の減少、ハイブリット車の台頭による燃費の向上がガソリン需要の減少につながり、ガソリンスタンドの廃業に追い討ちをかけた。さらに、地球温暖化対策税導入により収益が悪化したことも見逃せない。

じわり... 地方に広がる「ガソリン弱者」

   もっとも大きなダメージを与えたのが、2011年6月に改正された「危険物の規制に関する規則」だった。この改正では、ガソリンスタンドの地下貯蔵タンクの腐食防止対策の義務化などが定められ、2013年1月末の猶予期限までに必要な対策を取らないと消防法による認可の取り消し処分を受けることになった。

   しかし、地下貯蔵タンクの改修には3000~4000万円の費用がかかることから、営業の継続を断念するガソリンスタンドが続出した。

   厳しい経営環境の中で、ガソリンスタンド業界では石油元売りの主導による揮発油販売業者の統廃合や、規制緩和によりセルフ式ガソリンスタンドが解禁されたことで、営業形態をセルフ式に変更して生き残りを図るガソリンスタンドも相次いだ。

   日本エネルギー経済研究所石油情報センターによると、2020年度末のセルフスタンド数は1万467か所。前年度末比で147か所増加した。ガソリンスタンドのうち36.1%がセルフ式となっている。

   それでもガソリンスタンドに吹き付ける「寒風」は止むことはなかった。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、夏休みや帰省などを控える人が増加、ガソリン需要が大きく落ち込み、経営に大きなダメージを受けた。

   そして、ガソリンスタンドの存続に「とどめを刺す」ことになりそうなのが、世界中が脱炭素に動き始めたことだ。

   これまでのガソリンスタンド廃業は、東京や大阪といった大都市が中心だった。それでも、他の交通インフラが整備されている大都市では、ガソリンスタンドの数が減ってもさほど不便さは感じなかっただろう。

   しかし、ガソリンスタンドの減少は徐々に地方に拡大している。地方では都市部でのガソリンスタンド減少原因に加え、人口減少による需要の減少が大きく影響している=表3参照。

   資源エネルギー庁は、ガソリンスタンドが自治体に3か所以下のところを「ガソリンスタンド過疎地」としている。2020末でガソリンスタンドがゼロの自治体は10町村、1か所のみが86町村、2か所が109市町村、3か所が138市町村の計343市町村もある。

   地方の住居では、一番近いガソリンスタンドまで20キロメートル以上も離れているような場所もある。地方ではガソリンだけではなく、重油や灯油が生命線になっているケースもある。

   世界的な脱炭素の動きの中で、「ガソリン弱者」がこれ以上に増えないように、政府は十分に配慮していく必要がある。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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