じわり... 地方に広がる「ガソリン弱者」
もっとも大きなダメージを与えたのが、2011年6月に改正された「危険物の規制に関する規則」だった。この改正では、ガソリンスタンドの地下貯蔵タンクの腐食防止対策の義務化などが定められ、2013年1月末の猶予期限までに必要な対策を取らないと消防法による認可の取り消し処分を受けることになった。
しかし、地下貯蔵タンクの改修には3000~4000万円の費用がかかることから、営業の継続を断念するガソリンスタンドが続出した。
厳しい経営環境の中で、ガソリンスタンド業界では石油元売りの主導による揮発油販売業者の統廃合や、規制緩和によりセルフ式ガソリンスタンドが解禁されたことで、営業形態をセルフ式に変更して生き残りを図るガソリンスタンドも相次いだ。
日本エネルギー経済研究所石油情報センターによると、2020年度末のセルフスタンド数は1万467か所。前年度末比で147か所増加した。ガソリンスタンドのうち36.1%がセルフ式となっている。
それでもガソリンスタンドに吹き付ける「寒風」は止むことはなかった。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、夏休みや帰省などを控える人が増加、ガソリン需要が大きく落ち込み、経営に大きなダメージを受けた。
そして、ガソリンスタンドの存続に「とどめを刺す」ことになりそうなのが、世界中が脱炭素に動き始めたことだ。
これまでのガソリンスタンド廃業は、東京や大阪といった大都市が中心だった。それでも、他の交通インフラが整備されている大都市では、ガソリンスタンドの数が減ってもさほど不便さは感じなかっただろう。
しかし、ガソリンスタンドの減少は徐々に地方に拡大している。地方では都市部でのガソリンスタンド減少原因に加え、人口減少による需要の減少が大きく影響している=表3参照。
資源エネルギー庁は、ガソリンスタンドが自治体に3か所以下のところを「ガソリンスタンド過疎地」としている。2020末でガソリンスタンドがゼロの自治体は10町村、1か所のみが86町村、2か所が109市町村、3か所が138市町村の計343市町村もある。
地方の住居では、一番近いガソリンスタンドまで20キロメートル以上も離れているような場所もある。地方ではガソリンだけではなく、重油や灯油が生命線になっているケースもある。
世界的な脱炭素の動きの中で、「ガソリン弱者」がこれ以上に増えないように、政府は十分に配慮していく必要がある。(鷲尾香一)