2021年9月、初の民間人宇宙旅行が成功したというニュースはまだ記憶に新しい。一般人が宇宙へ行ける時代はすぐそこまで迫り、宇宙ビジネスへの注目度も年々高まっている。
そんななか、日本初の「宇宙葬(宇宙散骨)」がまもなく行われようとしている。手がけるのは、葬儀業界で長く経験を積んだ葛西智子(かさい・ともこ)氏が代表を務める株式会社SPACE NTK。アメリカの宇宙開発企業スペースX社と提携し、宇宙葬を専門とする会社として2017年に立ち上げられたベンチャー企業だ。
宇宙葬とはどういったものなのか。今後、葬祭と宇宙の関係はどのようになっていくのか。起業から4年を経て、記念すべき初回の打ち上げを来春に控えた葛西氏に聞いた。
「人は死んだら星になる」をずうっと夢見てきた
――まずは、葛西さんが宇宙葬ビジネスを手がけたいと思ったきっかけを教えてください。
葛西智子さん「ご縁があって20代で葬儀業界に入り、約30年間、さまざまな葬儀のプロデュースを行ってきました。亡くなった方やご遺族と関わる中で、ずうっと考えてきたのは、『故人の尊厳を形にするとはどういうことか』ということ。私自身がそもそも、お墓には入りたくないという気持ちが強くて......」
――「お墓に入りたくない」とは?
葛西さん「子どもの頃に祖母が亡くなり、そのとき初めてお墓に遺骨を入れるのを見ました。お墓に暗くてじめじめしていた印象を抱いて、子ども心に『あそこには入りたくない』と思ったんですよね。母からも『人は死んだらお星さまになるんだよ』と聞いていたので、『私はお墓には入らずに、死んだら星になりたい』とずうっと思ってきました」
――「星になりたい」という気持ちが「宇宙葬」に繋がったのですね。
葛西さん「私が葬儀の仕事を始めた頃はまだお墓での納骨がメジャーでしたが、だんだん海に遺灰をまく海洋散骨や、樹木を墓標とする樹木葬など、『お墓に入りたくない』という故人の意思を尊重した納骨方法が取り入れられるようになったんです。
ただ、『海』『陸』はあるのに『空』がない。そこで『空=宇宙葬だ!』と思いつきました。死んだら星になりたいという子どもの頃の夢がここで繋がり、残りの人生を宇宙葬の実現に賭けようと思い会社を立ち上げました」
――「宇宙葬(宇宙散骨)」は一般的にはまだあまりなじみのない言葉ですが、どのような方法で弔うのでしょうか。
葛西さん「宇宙葬は、カプセルに入ったご遺骨を人工衛星に乗せて宇宙空間へ打ち上げる散骨方法です。人工衛星はロケットで地球から約500?600キロメートルのところまで打ち上げられ、そこから5?6年ほど地球を周回します。最後は地球の引力に引き寄せられ、大気圏に突入して燃え尽きる。地球をしばらく回った衛星が最後は流れ星になる......というイメージです」
――まさに「星になる」。
葛西さん「宇宙葬をしたら、世界中どこにいても、お墓に行く時間がとれなくても、病気でベッドに伏していたとしても、夜空を見れば故人を思い出せます。遺された人がそうやって絶えず故人を思い出せるということが、故人の尊厳を形にすることだと私は考えています」