「いい円安」と「悪い円安」があるが...
円安にも「いい円安」と「悪い円安」があるが、悪いほうが進行しつつあるように見える指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。「パウエルFRB議長の再任と悪い円安進行」(11月24日付)で、こう述べている。
「日本では円安進行による輸入物価の上昇が、企業の収益悪化や個人の生活費を押し上げることで経済にマイナスになる、いわゆる『悪い円安』を懸念する向きが増えている。しかし現時点で、日本銀行が円安を食い止めるために引き締め的な政策を行う可能性は考えられない。実際のところ、企業の収益悪化や個人の生活費を押し上げる効果は、円安よりも原油高のほうが格段に大きい。円安進行に経済に悪影響を与える負の側面があることは確かであるが、日本銀行はこの点に、現状では大きな注意を払っていない。
ただし、2023年4月の黒田東彦総裁の退任以降は、日本銀行も慎重に出口戦略を模索することが予想される。日本銀行は金融機関の収益に悪影響を与えてきたマイナス金利政策の解除を、優先的に考えているだろう。一方で、マイナス金利政策の解除が急速な円高を生じさせることも強く警戒している。
FRBが利上げを進める局面でマイナス金利を解除すれば、円高のリスクを一定程度抑えることが可能となる。そこで、パウエル議長の下で進められる利上げの機会を逃さずに、日本銀行は2024年以降にマイナス金利の解除に動く可能性が考えられる」
いずれにしろ、2023年4月の黒田東彦総裁の退任を待たないと、日本の金融政策の正常化は始まらないということのようだ。
ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミストの渡辺浩志氏も、ヤフーニュースのヤフコメ欄で、悪い円安と原油高のダブルパンチの影響を、こう指摘している。
「円安はメリットを受ける人とデメリットを受ける人の双方が存在します。現在は円安と資源高が重なって輸入物価が急上昇し、生活必需品の値上げや燃料コスト増が家計や内需企業に打撃を与えています。一方、外需企業は価格競争力が高まり輸出量が増えたり、海外利益の円換算額が増えたりするメリットがあります。現時点では、経済全体でみれば円安による輸出や企業収益へのプラス効果が輸入コストの増加によるマイナスの影響を上回っていると思われます。
しかし、企業部門が得た円安メリットが賃金上昇の形で家計に還元されていません。家計には値上げによる実質賃金(購買力)の低下などのデメリットばかりが蓄積し、悪い円安を懸念する声が高まっています。賃金上昇を伴う物価上昇や個人消費の活発化が見込めない現状では、日銀が景気悪化に繋がりかねない利上げを行うことは困難。当面は金融緩和の幕引きへ向かう米国の事情が円相場を決める流れが続きそうです」
(福田和郎)