岸田文雄政権で初となる経済対策がまとまった。財政支出は過去最大の55.7兆円。首相は「新型コロナ対策に万全を期し、コロナ禍で厳しい影響を受けた方々に寄り添って万全の支援を行う」と対策を自賛したが、専門家の評価は散々だ。
背景には与党の「バラマキ」要求に抵抗しきれなかった岸田政権の弱腰の姿勢がある。
10万円のスピード分配も「世帯合算」問題はスルー
経済対策の規模が大きく膨らんだ最大の要因は、個人や事業者への給付措置を大盤振る舞いしたためだ。
18歳以下の子どもに1人10万円相当を給付するほか、低所得の住民税非課税世帯に1世帯10万円を配る。コロナ禍で減収になった事業者にも最大250万円を支援する――といった具合だ。
首相が重視する「分配」に沿った措置ともいえるが、もともと政権のアイデアではない。たとえば、子どもへの給付措置は公明党が衆院選の公約に掲げた政策だ。霞が関には効果を疑問視する声が強かったが、連立相手の看板政策を無下にはできず、対策の目玉として盛り込まれた経緯がある。
ただ、実施に向けた与党内の調整は難航した。官邸と自民党執行部、公明党は給付金の支給にあたり、児童手当の基準を拝借して年収「960万円」の所得制限を設けることで合意した。「バラマキ」批判を抑えられるうえ、児童手当の仕組みを利用することで現金の早期支給が可能になるためだ。
しかし、児童手当の所得制限は夫婦のうち、どちらか所得の高い方の年収だけが対象となる。世帯合算でないため、共働き世帯のほうが有利に働く。例えば夫だけに収入があって、それが961万円の家庭は不支給、夫婦それぞれ950万円ずつの収入なら世帯収入1900万円でも支給されるということだ。
これには子どもを持つ世帯に加え、自民党内からも「不公平だ」と不満が出たが、岸田首相が世帯合算を検討した形跡はない。官邸筋は「早期給付にこだわる公明党が世帯合算に反対したためだ」と解説する。
自民党は「規模を増やせ」の大合唱!
経済対策の規模にも与党の影響力が見える。岸田首相は自民党総裁選当時から経済対策について「数十兆円規模」と相当規模の財政支出を「公約」してきた。しかし、首相に近い議員は「ここまで大規模になるとは想定していなかった」と明かす。
肥大化させたのは、与党内の歳出拡大論者だ。安倍晋三元首相が「真水で30兆円超」の大型対策を求めるなど自民党内は「規模を増やせ」の大合唱。2022年夏の参院選を意識し党内の足場固めをしたい岸田首相はこれに抗うことができず、経済対策の策定は「規模ありき」に変容していった。
安倍政権では経済対策の決定権を官邸が握り、「アベノマスク」と呼ばれた全世帯へのマスク配布を含め官邸の意向が内容に強く反映された。しかし、岸田首相は「政高党低」路線からの脱却を目指し、与党の声を広く政策に反映する姿勢を示している。
だが、それが発言権を増した与党の「増長」につながった。官邸は存在感を発揮できず、看板の「分配」政策でさえ、与党内の要求に屈した「バラマキ」の印象を強める皮肉な結果を招いたというのが実態に近い。
「与党の幅広い声を受け入れれば政策の規模は膨らむ半面、経済対策全体としての効果は薄れ、『岸田カラー』も薄れてしまう。今回の対策の評判が悪いのも当然だ」
霞が関の官庁幹部は、こう突き放した。
(ジャーナリスト 白井俊郎)