税制と社会保険制度の縦割りを超えれば...
一方、「賞与ではなく固定給の引き上げが実現するなら、賃上げ税制も一定も効果が期待できる」とするのは大和総研の「賃上げ税制の実効性を高めるには『固定給』の引上げがカギ」(11月18日付)だ。金融調査部主任研究員の是枝俊悟氏ら3人のエコノミストは、アベノミクス下で行われた「賃上げ税制」にはそれなりの経済効果があったとしている。
「2013年度に創設された賃上げ税制は、2019年度にかけて年あたり約0.6兆円の名目雇用者報酬の引き上げに寄与したと試算される。もっとも、企業は本制度を利用して賞与を引き上げるケースが多く、所定内給与などの固定給の引上げにはつながりにくかった」
つまり、これまでは企業が基本給などの引き上げよりも、賞与の支給による減税を目ざしたために賃上げの実効性があまりなかったが、今後、基本給を引き上げれば賃上げが消費の拡大を生み出し、経済効果も上がると、こう続ける。
「短期的には賞与の引上げよりも固定給の引上げが個人消費の増加に寄与する。仮に新たな賃上げ税制の減税額を過去最大規模の0.4兆円と仮定し、それがすべて固定給の引上げにつながった場合、約0.6兆円の消費拡大をもたらす試算結果となった。賃上げが消費へと回り、それがさらに企業収益となるという『成長と分配』の好循環をもたらすかのカギは固定給の引上げにあるといえる」
そして、岸田政権が目指す「一人ひとりの賃上げについて税務職員が把握するシステム」についても、次のような「解決策」を提案している。
「社会保険制度(厚生年金や健康保険制度)における申告書や決定通知を用いれば、個人別の前年度比の給与の増減を企業および税務当局の双方が容易に捕捉・判別できる。税務だけでなく社会保険におけるデータも活用しつつ、実効性の高い制度設計を行うことが望まれる」
これまでは、税制は税制の枠内、社会保険制度は社会保険制度の枠内で制度設計が行われてきた。今後は、デジタルも活用し、縦割りの弊害を乗り越えて所得情報を相互に利用すればよい、というわけだが、果たして企業が基本給の上昇を飲むかどうかがカギになりそうだ。
(福田和郎)