「小手先の税優遇ではなく、成長戦略を示せ」
また、「小手先の税優遇ではなく、成長戦略を示せ」という点では、東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏も木内氏と同じ意見だ。税務・会計の情報サイト「Profession Journal」(11月4日付)に掲載した「monthly TAX views -No.106- どうなる賃上げ税制」の中で、アベノミクスによって2013年に導入された「所得拡大促進税制」以降の「賃上げ税制」の歴史を振り返りながら、こう述べた。
「このような減税措置にもかかわらず、わが国の賃金はここ30年間ほぼ同額で、今や韓国を下回る水準となった。賃金の伸び悩みという現象は、わが国の経済構造と深く関連しており、税制で小手先の措置を講じても大きな効果はないということを示している。
『新しい資本主義』『分厚い中間層』を標榜する岸田政権は、これまでの総額を対象とした税制に変えて、『一人一人の賃金を引き上げた場合に税制優遇が得られる仕組み』とする意向を示し、指示を受けた経産省・財務省は具体的設計の検討に入っている。
これに期待する向きがある一方で、企業の賃金構造、賃金体系は、企業の長年の経営を踏まえて決定してきたもので、『減税をするからハイ、賃上げ』とはいかない。とりわけ中小企業が賃上げに踏み切れないのは、賃上げの余裕がないということに尽きる」
また、現実問題として、一人ひとりの賃上げ状況をどうやって把握するのか、という疑問を投げかけた。
「一人ひとりの賃上げについて、税務職員が賃金台帳でチェックするような制度が果たして執行可能なのだろうか。加えて、そもそも企業の賃金体系にまで政府が口を出すというやり方が、『新しい資本主義』なのかという疑問もある」
そして、やはり「成長戦略こそ賃金上昇の王道だ」と提案するのだった。
「賃金の上昇を図るには、企業・従業員の生産性を向上させること、そのためには企業が将来の成長を予測できる成長戦略を提示し、国民の将来不安を軽減させる社会保障の将来像を示すこと、従業員の人的資本の向上を図るべくリスキリングやリカレント教育などを充実させる政策の導入など、よりベーシックな分野での政府の政策を見直していくことが必要ではないだろうか。岸田政権の『構え』は大きくしてほしいものだ」