税優遇のアメで「企業に賃上げを!」 岸田政権に期待できるのか、エコノミストの評価は?

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   「令和の所得倍増」というド派手な看板こそ下げたものの、「企業に賃上げをさせる!」というスローガンを岸田文雄首相が打ち出した。

   その決め手として企業に付きつけるのが、法人税の減税という「アメ」による「賃上げ税制」だが、いったいどんなものなのか。今度こそ期待してよいのだろうか。エコノミストたちの評価は......。

  • 30年間、ほとんど実質賃金が上がらなかった日本だが…(写真はイメージ)
    30年間、ほとんど実質賃金が上がらなかった日本だが…(写真はイメージ)
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アベノミクスで失敗した所得拡大策の焼き直し?

   いかに日本の実質賃金が下がり続けているか――。非常に残念なグラフを紹介しよう。第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏が2021年10月19日に発表したリポート「分配戦略:もっと吟味すべき3つの論点 ~どこに勤労者は不満を持つのか?~」で掲載されている「物価と賃金」の関係だ=グラフ参照

グラフ:「物価と賃金の関係」どんどん下がる実質賃金(第一生命研究所の熊野英生氏のリポート「分配戦略:もっと吟味すべき3つの論点~どこに勤労者は不満を持つのか?~」より)
グラフ:「物価と賃金の関係」どんどん下がる実質賃金(第一生命研究所の熊野英生氏のリポート「分配戦略:もっと吟味すべき3つの論点~どこに勤労者は不満を持つのか?~」より)

   これを見ると、実質賃金が1996年をピークに、ほぼ一貫して下落していることがわかる。第2次安倍政権で始まった「アベノミクス」によって、2013~2018年まで名目賃金は上昇した。しかし、それを上回るペースで消費者物価が上昇したため、実質賃金が下がり続け、人々の生活はさらに苦しくなった。

   G7(主要先進7か国)の平均賃金の順位をみると、日本は現在、最下位。米国、ドイツ、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、日本の順だ。金額比をみると日本は米国の59%、ドイツの72%、イギリスの82%である。2015年時点で日本は韓国やイタリアを上回っていたが、2019年に韓国とイタリアに追い抜かれてしまった。

   こうした実質賃金の下落を何とかしようと、岸田文雄政権は11月19日に閣議決定した「経済対策」の柱に「賃金の引上げ」を打ち出した。

   具体的には「賃上げ税制の強化」によって、企業に賃上げを促していく。企業が一定の割合以上に従業員の賃上げを行うと、法人税を減税する「優遇」を行うというもので、自民党税制調査会(宮沢洋一会長)などで、本格的な議論が始まった。12月上旬に取りまとめる2022年度税制改正大綱に盛り込む方針だ。

   じつは、「税の優遇」によって企業に賃上げを促すやり方は、岸田政権が初めてではない。第2次安倍晋三政権がアベノミクスの成長戦略の一環として2013年に導入した所得を増やすための政策の1つだった。「所得拡大促進税制」と名付けられ、8年間にわたり、少しずつ法人税の税額控除率など条件を変えながら続いてきた=図表1参照。

図表1:賃上げ税制(所得拡大税制)の推移(大和総研の是枝俊悟氏らのリポート「賃上げ税制の実効性を高めるには『固定給』の引き上げがカギ」より)
図表1:賃上げ税制(所得拡大税制)の推移(大和総研の是枝俊悟氏らのリポート「賃上げ税制の実効性を高めるには『固定給』の引き上げがカギ」より)

   ところが、目立った賃上げの効果はなかった。現行の「賃上げ税制」は、賞与(ボーナス)も含めた従業員の給与総額が前年度より増えた場合に、法人税額から支給額の一部を差し引くことで企業の法人税負担を軽減する仕組みだ。

   その条件は大企業と中小企業で異なり、大企業は新規雇用者の給与総額が前年度より2%以上増えれば支給額の15%分を、中小企業は全雇用者の給与総額が1.5%以上増えれば増加額の15%分を控除できるというもの。

   なぜ、賃上げの効果がなかったかというと、理由は大きく2つある。1つは、企業が従業員の基本給を上げずに賞与(ボーナス)などの一時金の支給によって「税の優遇」を受け続けたこと。

   2つ目は、そもそも日本の全企業のうち黒字で法人税を払っているのは大企業を中心に35%ほどしかなく、法人税を払っていない大半の企業にとっては、何の「うまみ」もない政策だったことだ。

   このため、主要メディアの報道によると、自民党税調の宮沢洋一会長は報道各社のインタビューに対して、

「これまで企業はボーナスを上げることで賃上げ税制の基準をクリアしてきたが、一回だけですまさずに、基本給がしっかり上がっていくことで経済が成長していくシステムをつくりたい。制度の対象を、基本給を上げた企業を軸とする方向で議論する考えだ」

などと語っている。

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