住宅を探している最中に出くわしてしまう「おとり広告」って、なんだ!? 誰もが引っかかってしまう可能性が......(中山登志朗)

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   みなさんは、「おとり広告」に引っ掛かってしまった経験はないでしょうか?

   「おとり広告」は、たとえば就職や転勤などのライフステージが変化するタイミングで、新たな住宅を探しているときに、誰でも出くわしてしまう可能性があるのです。今回は、そんな「おとり広告」について見てみます。

  • 住まいを探している最中に「おとり広告」に出くわしてしまう可能性が……(写真はイメージ)
    住まいを探している最中に「おとり広告」に出くわしてしまう可能性が……(写真はイメージ)
  • 住まいを探している最中に「おとり広告」に出くわしてしまう可能性が……(写真はイメージ)

「おとり広告」は違法です!

   「おとり広告」とは実際に該当する物件がない、もしくは実際に物件はあってもすでに購入者が決まっていたり、借り手がついていたりして居住することはできないのに、あたかも「買える」「借りられる」物件として、インターネットのポータルサイトもしくは自社サイトやチラシなどに掲載されている広告のことです。

   実際には対価を支払っても購入・賃貸可能ではありませんから、一般的には景表法(不当景品類及び不当表示防止法)の不当表示などに関する規定を根拠として、宅建業法や表示規約において明確な違反行為と規定されています。

   宅建業法(宅地建物取引業法)では、第32条に「誇大広告の禁止」、同33条には「広告開始時期の制限」、同34条にも「取引態様の明示」が規定されており、それぞれ広告の内容、開始時期などについて明記されています。

   特に、誇大広告については同32条に「著しく事実に相違する表示」「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」をしてはならないとされており、これに違反した場合は、指示(同65条第1項、第3項)、業務停止(同65条第2項、第4項)、情状が特に重いときは免許取消(同66条第1項9号)という処分があります。さらに、同81条には「六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と罰則規定も設けられています。

   また、景表法を背景とした表示規約(不動産の表示に関する公正競争規約)にも、第21条に「おとり広告」の規定があり、物件が存在しないため、実際には取引することができない物件、物件は存在するが実際には取引の対象となり得ない物件、物件は存在しますが、実際には取引する意思がない物件については、それぞれ「広告表示をしてはならない」と規定されています。

   これだけ厳しくダメと不動産業界からも監督官庁からも始動されているのに、大変残念なことですが「おとり広告」はなくなっていません。

これが「おとり広告」の手口だ!

   では、「おとり広告」がなぜなくならないのか――。その理由を考えてみましょう。

   「おとり」とは、何かをおびき寄せるために使う手段のことですから、不動産広告に沿えば、駅にも近くまだ築年数も浅いのに周辺の物件よりも、かなり割安に見える価格・賃料で表示されているようなケースが想定できます。

   実際に広告に表示されている物件は実在しないか、実在していてもすでに所有者や賃借人がいるために買えない・借りられない物件なので、「おとり」につられて問い合わせが来た場合は、先ほどタッチの差で売れてしまった・借りられてしまったけれど、ほかにも広告にまだ出していない&似たような物件を預かっているので見に来てくれれば紹介する、などと言葉巧みに誘い出し、契約を迫るわけです。

   つまり、購入希望客および賃貸希望客を、労せずに自分たちの手元に連れてきてくれるのが「おとり広告」なので、売り上げが減っているとか新規の扱いを取って是非成約したいと考える不動産会社は、安易に集客ができる可能性がある「おとり広告」に手を出してしまうのです。

   もちろん営業努力せずに、楽をして効率よく収益を上げることを最優先に考えている不動産会社も「おとり広告」を出す可能性が高いでしょう(そういう会社は極めて少数だと思いたいですが)。

   最近では手口が巧妙化しており、インターネット上の地図で物件の外観などから特定できることもあるため、住所などで該当しない物件は広告に掲載しなくなりましたし、明らかに安価であると思われる価格・賃料を表示せず、よく見ると物件のグレードやスペック(駅に近いとか幹線道路に面していないとか)の割にちょっとお得に見えるような設定にしているケースがあります。

   またこれらとは違って、結果的に「おとり広告」になってしまうケースもあります。それは広告を通じて成約しすでに買主・賃借人が決まったのにも関わらず、リソースが足りないとかほかの業務を優先したとか、様々な理由でその物件の広告を取り下げ忘れる場合です。自社サイトに掲載するだけでなく、提携しているサイトや不動産ポータルサイトにも掲載されていると、広告を落とし忘れたり、取り下げるまでにタイムラグが発生する場合もあります。これらはこまめに情報更新を怠らないこと、情報更新日時を明記して掲載時点では販売・賃貸可能であったことを明記するなどの対策が必要です。

   やや宣伝モードになりますが、私が所属するLIFULL HOME'Sでは2021年8月より、このようなうっかりミスを防止すべく、管理会社大手の大東建託パートナーズと提携し、物件が成約した段階ですぐに広告から削除する仕組みを開発・開始しました。

   ※なお、LIFULL HOME'Sでは「おとり広告」の撲滅に向けて、確信犯的な故意に基づく行為だけでなく、成約後に情報の更新を怠った「過失による結果おとり広告」もなくすため、以下の取り組みを実施しています。

   参考リンク:「業界最大手の大東建託パートナーズと情報連携、募集終了物件情報を用いた自動非掲載機能で情報精度を向上」

「おとり広告」は不動産業界の信頼・信用を失墜させる大問題!

   物件は基本的に早い者勝ちだから、問い合わせた段階ですでに買い手・借り手がついている場合もあるだろうし、特に相場よりも賃料・価格が安価なケースはもっとよく調べて(ほかの不動産会社にもあたって)怪しそうな物件に引っ掛からないようにすれば、などと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

   現在ある物件の中から買ったり借りたりするわけだから、「ない」ことについて実害はない、もしくは少ないのではないかとも考えるかもしれません。しかし、目当てにした物件がじつはおとりで、それに釣られてほかの物件を買ってしまう、借りてしまうことが商行為として正しいとは到底言えません。

   また、実際には「ない」物件について問い合わせたり、実際に不動産会社に足を運ばせたりすればそのユーザーの時間をムダにしますし、「ない」ことを知る過程で買い手・借り手にネガティブな印象を与えることは必至ですから、不動産会社や街に対するイメージを損なってしまうことが問題であると言えるのです。

   たとえば、就職前の学生の物件探しはアイドリング期間だから時間が多少ムダになっても、と思われがちですが、これが海外赴任から帰国する際に家を探す企業の役員や社員でもケースとしては同じです。ユーザーは騙されたことについて考えが足りなかったと反省することもあるでしょうが、一番悪いのは実際に「借りられない・買えない物件」をあたかも「借りられる・買えるように偽って広告」し続けている不動産会社なのです。

   仮にこの物件を実際に借りることができたら、その街に住んで日々買物したり食事をしたり、当然家具や家電などまとまった買い物もしますから、街にとって歓迎すべき経済効果が生まれます。さらに、購入事案であれば、住民税だけでなく都市計画税や固定資産税なども発生するので、住んでもらった自治体にも税収というメリットがあるわけです。

   そういった経済波及効果を一切考えることなく「おとり広告」で誘い出して、ほかの物件を(時間や知見がなくて妥協してしまう場合もあるでしょう)借りたり買ったりさせれば、それは自分たちの利益になればそれで良いとの打算的な考え方に基づいた行動であり、思惑どおりに成約しなかったとしても、嫌な思いをしたという体験が残ることによって、当該不動産会社だけでなく不動産業全体に対してネガティブな印象を持たれることにつながるのです。

   「おとり広告」は年々巧妙化し、その広告によって「問い合わせさせられている」ことに気付かないユーザーもいることがわかっています。法律や規約に反しているからというだけでなく、「おとり広告」が与える社会的影響の大きさをイメージして、業界全体で「おとり広告」の撲滅を実現しなければなりません。「おとり広告」はしない&させない、という自浄努力があってこそ不動産会社の社会的信用が得られるのです。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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