住宅を探している最中に出くわしてしまう「おとり広告」って、なんだ!? 誰もが引っかかってしまう可能性が......(中山登志朗)

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「おとり広告」は不動産業界の信頼・信用を失墜させる大問題!

   物件は基本的に早い者勝ちだから、問い合わせた段階ですでに買い手・借り手がついている場合もあるだろうし、特に相場よりも賃料・価格が安価なケースはもっとよく調べて(ほかの不動産会社にもあたって)怪しそうな物件に引っ掛からないようにすれば、などと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

   現在ある物件の中から買ったり借りたりするわけだから、「ない」ことについて実害はない、もしくは少ないのではないかとも考えるかもしれません。しかし、目当てにした物件がじつはおとりで、それに釣られてほかの物件を買ってしまう、借りてしまうことが商行為として正しいとは到底言えません。

   また、実際には「ない」物件について問い合わせたり、実際に不動産会社に足を運ばせたりすればそのユーザーの時間をムダにしますし、「ない」ことを知る過程で買い手・借り手にネガティブな印象を与えることは必至ですから、不動産会社や街に対するイメージを損なってしまうことが問題であると言えるのです。

   たとえば、就職前の学生の物件探しはアイドリング期間だから時間が多少ムダになっても、と思われがちですが、これが海外赴任から帰国する際に家を探す企業の役員や社員でもケースとしては同じです。ユーザーは騙されたことについて考えが足りなかったと反省することもあるでしょうが、一番悪いのは実際に「借りられない・買えない物件」をあたかも「借りられる・買えるように偽って広告」し続けている不動産会社なのです。

   仮にこの物件を実際に借りることができたら、その街に住んで日々買物したり食事をしたり、当然家具や家電などまとまった買い物もしますから、街にとって歓迎すべき経済効果が生まれます。さらに、購入事案であれば、住民税だけでなく都市計画税や固定資産税なども発生するので、住んでもらった自治体にも税収というメリットがあるわけです。

   そういった経済波及効果を一切考えることなく「おとり広告」で誘い出して、ほかの物件を(時間や知見がなくて妥協してしまう場合もあるでしょう)借りたり買ったりさせれば、それは自分たちの利益になればそれで良いとの打算的な考え方に基づいた行動であり、思惑どおりに成約しなかったとしても、嫌な思いをしたという体験が残ることによって、当該不動産会社だけでなく不動産業全体に対してネガティブな印象を持たれることにつながるのです。

   「おとり広告」は年々巧妙化し、その広告によって「問い合わせさせられている」ことに気付かないユーザーもいることがわかっています。法律や規約に反しているからというだけでなく、「おとり広告」が与える社会的影響の大きさをイメージして、業界全体で「おとり広告」の撲滅を実現しなければなりません。「おとり広告」はしない&させない、という自浄努力があってこそ不動産会社の社会的信用が得られるのです。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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