「ゆるい! 肩透かしです。会社ってこんなものですか?」
「上司は私に気を使い過ぎています。もっと鍛えてほしい!」
...... なんとコレがイマドキの大手企業新入社員の言葉だという。
「獅子は我が子を千尋(せんじん)の谷に突き落とす」というニッポン企業の新人教育など昔話になり、いまや新入社員から見て「ゆるい職場」が半数近くに達するありさまだ。
特に上司の影が薄くなっていることが、リクルートワークス研究所の新入社員聞き取り調査で明らかになった。ニッポンの会社は大丈夫か?
「上司に叱責されたことは一度もないです」
調査リポート「研究所員の鳥瞰虫瞰:修羅場もない、叱責もない。『ゆるい職場』は新入社員を変えるか」(2021年11月5日付)をまとめたのは、リクルートワークス研究所研究員の古屋星斗(ふるや・しょうと)さんだ。
リポートによると、古屋さんは今年9月から10月にかけて、10社以上の大手企業の新入社員に仕事についてインタビューしたが、衝撃を受けたという。
入社1年目といえば「5月病」という言葉もあるくらい、慣れない社会人生活が始まり、ストレスの高い状況のはずだった。ところが、彼らの多くが一様に語ったのは、こんな言葉だった。
「正直言って、余力があります」
「ゆるい。社会人ってこんなものなのですね」
「学生時代に近くて肩透かしです」
といった『持て余し感』だった。
普段の仕事ぶりについて聞いたときに、「上司」の話がほとんど出なかったことも気になった。そこで、あえて上司について聞くと、
「一度も叱責されたことはないです」
「理不尽なことを言われたことはありません」
と、まったく印象に残らない反応だった。
これまでの新入社員に対する考え方では、就職前に想像していた職場のイメージと現実のギャップから、リアリティショックが起こるとされていた。そのリアリティショックでは「上司」の存在が大きいとされていたが、ギャップ自体が存在していないかような語り口であった。
ストレスもないが成長もない「ゆるい職場」とは
これは、いったいどういうことか。リポートでは、いくつかの関連するデータを、次のように紹介している。
(1)大手企業の新入社員の週あたりの労働時間は、2015年では44.5時間であったが、2020年では42.4時間と徐々に減っている。これに伴って週50時間以上の労働時間の新入社員の割合も2015年の24.4%から2020年では14.6%に低下している。つまり、労働時間がどんどん短くなっているわけだ=図表1参照。
(2)一方、「職場でストレスを感じているかどうか」と「成長している実感があるかどうか」を調べたデータでは、以下の4つのグループにわけて分析した。
A:グループ1=ストレス感が低く、成長実感が高い(のびのび成長)
B:グループ2=ストレス感が低く、成長実感が低い(のびのびマイペース)
C:グループ3=ストレス感が高く、成長実感が低い(目前の仕事で手一杯)
D:グループ4=ストレス感が高く、成長実感が高い(ハイプレッシャー成長)
このうち、ストレス感がない代わりに、成長実感もない「のびのびマイペース」のグループ2が、いわゆる「ゆるい職場」に該当する。そして、この「ゆるい職場」が年々増えており、2021年の調査では、44.4%に達してしまった=図表2参照。
リポートの冒頭に現れた新入社員の「持て余し感」あふれる言葉は、「ゆるい職場」の配属された人が多いことを示している。
では、なぜ「ゆるい職場」が増えてしまったのか。リポートがまず指摘するのは、企業に対する労務管理に関するルールが、特に大企業を中心に厳しくなったことだ。
2015年に若年雇用促進法が施行され、採用活動の際に自社の残業時間平均や有給休暇取得率などを公表することが義務付けられた。2019年には働き方改革関連法により労働時間の上限規制が施行された。さらに2020年にはパワハラ防止対策法が施行された。
新入社員に対して、これまでのように厳しく接することができなくなった。折しも、2015年から売り手市場の著しい採用難が始まり、採用力を高めるために若手の労働環境を改善する動きが加速した。こうした変化の中にコロナショックが来たのだ。
新入社員研修がオンラインとなり、配属されても週に何日かはリモートワークとなった。職場のコミュニケーションスタイルも変化した。上司から同僚へと、上下関係から横の関係がメインになり、企業がこれまでの持っていた上司・先輩が指導する教育メソッドを放棄せざるを得なくなったことが、「ゆるい職場」化を一層加速させたというのだ。
(福田和郎)