「仕事ができそうに見えてつらい」という女性の投稿が話題になっている。
実際は、仕事ができないのに、外見がいかにもデキそうな印象のため、勝手にチームリーダーなどのポストを任されては失敗、周囲を裏切ってきた。
この投稿に、「私もそう。背が高くてキリッとした顔立ちだからデキル女に見られて...」という共感の声と、「私は逆。ドンくさく見えるため仕事ができるのに...」という反発の声で炎上状態だ。
それぞれ、仕事にどう取り組むとよいのか、専門家に聞いた。
デキそうな女「背が高くキツメの顔、声は低めで姿勢よし」
話題になっているのは女性向けサイト「がーるずチャンネル」(11月5日付)に掲載された「仕事できそうに見えてつらい」というタイトルの投稿だ。
「アラフォーです。若い頃からずっと、なぜか仕事ができそうな印象を持たれることが多かったです。実際はごく普通。迷惑はかけていないけど、生産性を上げるとか工数削減するとかの成果が出せないという意味では、普通以下かと思います。面と向かって言われたことはないですが、『○○さんってもっとできる人だと思った...』と思われているのは今までも感じてきました」
リーダーとかチームをまとめる立場を期待されたこともあったが、とても不向きだし、実際できなかった。そういう立場に選ばれて精神的に不安定になったこともある。そして、こう訴えるのだった。
「仕事できなさそうなのにできる人のほうがいいですよね。(私は)勝手に期待されていると言えばそうなのですが、できそうに見えてできないって損な気がします。期待を裏切る感じになってしまい、いつもつらいです」
この投稿に、「私もそうだ!」「自分の同志を見つけた気がする!」という共感の投稿がラッシュ状態になった。
「見た目で判断しないで欲しいですよね。もしかして、お酒もよく呑みそうと言われませんか?」
「さらに、学生時代スポーツやっていたでしょって言われる。50メートル走12秒だったよ」
「『長女でしょ?』って言われる。思いっきり末っ子なのに」
さらに、「自分もできる」と思われて迷惑をしているという人たちには、共通する外見があった。それは、こんなふうにだ。
「めちゃくちゃわかる。おそらく高身長で、ペラペラな身体にキツイ顔立ち、きっと私たち同志ですね。なるべく職場の人とは壁を作るようにしています。カフェオレ飲んでいるだけで『ブラックしか飲まないと思っていた!』とか言われるのにうんざり!」
「私も背がでかくて、声も大きいから勘違いされる。でも長く話すと要領得ないこと言っているから、仕事できないのがすぐバレる」
「私も顔が結構キツメでハキハキ喋るからかな。本当は仕事できなくて転職も何回もしている。ある職場では、仕事できそうな見た目だけで全国各地の新人を集めたコミュニケーション会の代表に選ばれそうになりました。ただのパートだったし、全力で断りました」
「自分で言うのもなんですが、背が高くてシュッとしているからか、スマートな対応しそうだと思われているみたい。実際はドンくさいからマジで引かれます」
デキなそうな女「ドンくさくて押しに弱そうな顔」
そして、「できる」と見られることによって、こんな苦労をしている人が多かった。
「顧客へのプレゼンとか、Zoomセミナーの講師とか、新入社員のエルダーとか本当に嫌です。見た目で判断しないで欲しい」
「勤めて4年目。工場現場勤務だけど、責任の重い仕事をやらされる。体力的なことは確かに得意だけど、頭が悪いから本当に精神的に病む。上司に『私には出来ません!』と言っても、『やってみて無理だったら、また言って』と言われる。ほかに使えそうな人がいないらしいけど、私から見たらほかの人のほうが優秀」
「『ミステリアス、私生活謎』と必ず言われる。英語や中国語が話せそう、高学歴に思われているよ。この間メモに手書きで用件書いた。上司が『この紙、誰が書いたの?』とみんなに聞いて、私とわかった瞬間ドン引きしていた。『〇〇さんは達筆なイメージがあった!』って」
一方で、投稿者とは真逆に「私はできないと思われている。それもつらい」という悩みを抱えている人も多かった。
「私は『できなさそうに見える』人間の側です。あなたの立場になったことがないのでわかりませんが、決してよくはないですよ。複雑なことを苦労して完璧に仕上げても、簡単なことだと思われて『ストレスがなくていいよね〜』って嫌味言われたりしますもん」
「私なんて、仕事できない、イヤと言わない、ドンくさそう、パソコンできなさそうと思われている。自分で言うのもなんだが、仕事はソコソコ。昔からパソコン得意だし。イヤなことはイヤと言う。私の冴えない見た目で判断しないでほしいよね」
「自分は逆に実力よりできないと思われるタイプ。上司同僚からは頼りにされるけど、接点が薄い人には信用されなかったり、なめられたりする。押しに弱そうな顔と、声質が弱くて、頼りなさそうな感じが原因なのだろうと思う」
投稿者に、こんなアドバイスをする人もいた。
「昔、採用担当の上司や先輩がこう言っていた。『仕事できそうと思われがち』なものとして、姿勢がいい、落ち着いた雰囲気、話し方や受け答えがしっかりしている、声が低い、字がキレイ、人の目をしっかり見て対応する、人の話を最後まで聞く。でも、これはあくまで印象で、他人が勝手に期待して勝手にガッカリしているだけだから、あなたは自分の今やれることに集中して、他人の評価を自分の価値に置かない考え方にしたらいいよ」
「デキる女」は何となく宝塚の男役のイメージ?
J-CAST会社ウォッチ編集部では、今回の「仕事できそうに見えてつらい」という女性の投稿をめぐる論争について、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに意見を求めた。
――今回の論争について、率直にどのような感想を持ちましたか。
川上敬太郎さん「見た目や振る舞いだけの印象で過度な期待をされるというのは、確かにプレッシャーを感じてしまうと思います。また、勝手に期待されて、その期待に応えられなかった時にガッカリされてしまうと気持ちが塞いでしまいそうです。
後で嫌な思いをしなくて済むように、『私はできない』と先に予防線を張っても、かえってできる人が謙遜しているように受け取られてしまうこともありそうです。相手がどんな印象をもつかは、こちら側でコントロールできないだけに、投稿者さんの悩ましさには、ぶつけどころがないもどかしさがあるように思います」
――論争の背景には、女性が働くうえで「見かけ」「容姿」「ふるまい」などの「外見」が少なからず影響を与える傾向があると思います。川上さんは働く主婦層の実情を調べる『しゅふJOB総研』の研究顧問をされていますが、これまで「見た目」の問題について調査したことはありますか。
川上さん「見た目などの印象そのものとは異なりますが、女性管理職に対して女性自身はどのようなイメージを持っているのかを調査したことがあります。 『あなたは女性管理職についてどのようなイメージを持っていますか?』との質問に対し、実に3分の2の女性が『能力が高くて仕事ができる』と回答しました。『一定の裁量権を任されていてやりがいがある』など、管理職としての仕事内容に関するイメージの倍近くに高くなっています。
もちろん、実際に仕事ができるから管理職に抜擢されているはず、と受け取っている人もいるとは思いますが、管理職だからといって必ずしも能力が高いとは限らないというのは、多くの人が実感していることです。『女性管理職』という肩書きを見ただけで、『能力が高い』『仕事ができる』というイメージと結びつけている人がたくさんいる可能性があります。それと同様に、見た目や振る舞いだけで、仕事ができそうなイメージを持つ人もいるだろうと思います」
――なるほど。女性の場合は「肩書」という見た目に影響される度合いが高いということですね。ところで、「私もできそうと見られている」と、投稿者に共感を寄せる回答の多くは、共通した外見をあげています。「背が高い」「声が低い」「キリッとした顔立ち」などで、何となく宝塚歌劇団の男役のイメージです。
また、「末っ子なのに長女と思われた」「カフェオレを飲んでいると、ブラックが好きと思っていたと言われた」「字が汚くてドン引きされた」という意見もありました。男性では考えられない視点ですが、「仕事ができそう」とみられる要素は、女性と男性では違うのでしょうか。
川上さん「『仕事ができそう』と思われる外見があるか否かで考えれば、あるのだろうと思います。ただし、その判断基準は性別というより、人それぞれが持つ独自の着眼点や経験などによって異なるのではないでしょうか。
また、それらの判断基準は、さらに仕事経験を積み重ねていくとともに変わっていくように思います。まだ、社会に出たばかりの新卒のころ、すごく仕事ができるイメージだった先輩が、じつはそうでもなく、最初はパッとしなかった先輩がすごく優秀だったという経験をしたことがある人も多いでしょう」
女性活躍が進めばお仕事ドラマのヒロイン像も変わる
――テレビのお仕事ドラマを見ても、男性の場合はかなりずぼらでラフな印象を与えながら「じつは仕事ができる」という破天荒なキャラクターが多くいます。ところが、女性の場合は「これ経費で落ちません」(NHK)、「わたし、定時で帰ります」(TBS)など、みなシッカリしていそうに見えるのが基本で、ぶっ飛んだキャラクターはほとんどいません。やはり、男性と女性とでは「仕事ができそう」な外見は違うのではないでしょうか。
川上さん「女性が働くことが珍しかった時代は、必然的に『仕事ができる女性』のイメージのバリエーションが少なかったように思います。ドラマなどでも、かつては職場にいる人の大半は男性で、女性が登場するときは男性課長にお茶出しするシーンなどが多かったという印象です。活躍する女性が描かれる機会そのものが、男性に比べてとても少なかったのです。
今も子どもたちに人気のテレビ番組『戦隊シリーズ』では、初期のゴレンジャーのころから男性隊員のほうが数は多く、モモレンジャーのように紅一点であることも少なくありません。一方、男性隊員は圧倒的に数が多いのでアカレンジャーのようにどこから見てもカッコいい正統派ヒーローもいれば、キレンジャーのようにカレー好きでコミカルなヒーローもいたりします。そのように小さなころから観ているテレビ番組が影響している面もあるのかもしれません。
女性活躍が推進されるにつれ、テレビドラマで活躍する女性が描かれるバリエーションが今よりも増えていけば、『仕事ができる女性』のイメージの幅ももっと広がっていくのではないでしょうか」
――確かに、お仕事ドラマでは「仕事ができる男性」のイメージもどんどん変わっていますね。「おじさんはカワイイものがお好き」(日本テレビ)では、切れ者の部長だけど、じつはぬいぐるみが大好きという秘密を持っているキャラクターが大人気になり、「おじかわブーム」が起こりました。
川上さん「いかにも落ち着いた雰囲気で受け答えもしっかりしている男性部長が、『末っ子なのに長男と思われた』という経験をしていることはありそうです。また、いかにも強面の男性課長が『カフェオレを飲んでいると、ブラックが好きなのかと思っていた』と言われた経験があるかもしれません。イケメン社員が、字が汚くてガッカリされることも珍しくなくなりそうです」
「自分への過大評価を成長のチャンスにしよう」
――川上さんなら、この投稿者にはどうアドバイスしますか。
川上さん「仕事ができると思われていると、最初から周囲の期待というハードルが上がった状態で仕事に取り組むことになるため、投稿者さんはどうしてもつらい役回りを担うことになります。それは事前に防ぎようもないので、もどかしいこととお察しします。 振る舞い方としては、大きく二つポイントがあります。一つは、相手から仕事ができそうだと、明らかに過大評価されていると感じた時は、キッパリと自分にはできないと言い切ることです。相手の期待に応えない意思を示すのは勇気がいることですが、曖昧なスタンスで安請け合いしてしまうと相手に迷惑がかかることになり、結局自分自身が傷ついてしまうことになります。
もう一つは、逆に自分への過大評価を成長の好機と捉え直すことです。仕事が振られたり、期待されたりしているということは、チャンスに恵まれているということでもあります。今は実力不足でも、仕事を通じて成長できれば、後から実力がついてくることもあります。期待に応えないという意思を示すのと同様に、自分への過大評価を好機と捉えることにも勇気がいりますが、その勇気は投稿者さんご自身に大きなメリットをもたらすでしょう。投稿者さんは他の人にはない選択肢が与えられている点で、恵まれていると言えます」
――なるほど。ピンチをチャンスに変えるわけですね。また、投稿者とは真逆ですが、「仕事ができるのに、できなそうに見えて悔しい」という女性にはどうアドバイスしますか。
川上さん「チャンスに恵まれないのはつらいことですが、それもまた自分ではコントロールできないことです。大切なのは、ないものねだりをするより、いま目の前の仕事に全力で向き合い、しっかりと成果を出すことだと思います。地道な努力を続ければ、それはいずれ誰もが認める実績となり、『外見』のような曖昧な根拠ではなく、新たなチャンスを引き寄せる確実で心強い武器になるはずです。実績に勝る信頼はありません」
(福田和郎)