物価上昇の背景にある「怖い」円安 「堰を切った」ようにモノが値上がり、そのとき雇用は? 賃金は......(鷲尾香一)

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   物価の上昇に歯止めがかからない。日本銀行が2021年11月18日に発表した10月の国内企業物価指数は原油など資源価格の高騰や円安の影響を受け、8か月連続で上昇した。

   国内企業物価の上昇は、やがて消費者物価に波及する可能性が高い。

  • モノが値上がり、お財布の中身が……(写真はイメージ)
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問題は輸入物価指数の上昇だ!

   10月の国内企業物価指数は前年同月比8.0%上昇した。これは第2次石油危機の余波が残る1981年1月(8.1%)以来、40年9か月ぶりの高さとなった。

   輸出物価指数(円ベース)は前年同月比13.7%の上昇となった。2021年2月から9カ月連続の上昇だ。それよりも問題なのは、輸入物価指数(円ベース)の上昇だ。10月は前年同月比38.0%も上昇した。3月から8か月連続で上昇した。

   上昇幅を見ると、輸入物価指数が輸出物価指数よりも急激に高い上昇を示していることがわかる。原油などの資源価格の上昇に加え、急激な円安の動きが影響している=表1参照。

   これは、総務省の消費者物価指数の動きを見るとよくわかる。消費者物価の総合指数は、9月に0.2%のプラスに転じた。プラスに転じたのは2020年8月以来、1年1か月ぶり。

   通常、消費者物価を見る時には、季節要因による価格変動が大きい生鮮食品を除いた指数を参考にする。この生鮮食品を除いた9月の指数は前年同月比0.1%のプラスとなった。プラスは2020年3月以来、1年6か月ぶりのことだ。

   ところが、生鮮食品とエネルギーを除いた9月の指数は前年同月比0.5%のマイナスとなっている。つまり、総合指数の0.2%プラスというのは、エネルギーのプラスが大きく押し上げた結果だということがわかる=表2参照。

資源価格に海運コスト...... 上がるものばかり

   輸入物価指数上昇の要因には、原油など資源価格の高騰に加え、輸入品の物流における運賃の上昇も影響している。外航不定期船(外航ばら積み船)の運賃の総合指数であるバルチック海運指数は、2020年10月には1283ポイントだったが、2021年9月には5000ポイントにまで上昇した=表3参照。

   加えて、円安の動きだ。2021年の年明け1月に1ドル=104円台にあったドル・円相場は、ドルの急激な上昇により、10月には1ドル=114円を突破した。3年ぶりの円安水準であり、年初から10円もドル高・円安が進行した。

   たとえば、年初には1ドル=104円で買えていた原油が、10月には1ドル=114円を出さないと買えなくなったわけで、輸入価格が為替要因だけで約10%も値上がりしたことになる。

   「日本は輸出が経済をけん引している。円安は輸出企業の売上・利益を膨らませる」という考えは根強い。確かにそうした一面はあるが、現在では製造業の多くは現地生産を行っており、円安が企業の利益に与える影響は、円安効果によって売上高が膨らむほど大きなものではない。

   一方で、原油にしろ、資源にしろ、さらには食料まで輸入に頼っている日本では、原油・資源高であろうが、為替円安であろうが輸入数量を減らすのは難しい。円安は輸入物価の上昇を通じて、消費者物価を押し上げることになる。

   ただし、国内企業物価指数の上昇が消費者物価指数の上昇に影響を与えるまでには、タイムラグがある。前述のように、国内企業物価指数が大きく上昇しているにもかかわらず、消費者物価指数の上昇は非常に小幅なものにとどまっているのは、原油など資源価格の上昇によるコスト増を製品価格に転換するまでに、企業がある程度の我慢(腹切りとも言われる)をするためだ。この我慢が限界に達すると、堰を切ったように値上げ合戦が始まる。

   つまり、本格的な消費者物価の上昇は、「これから本番を迎える」ということだ。

   さらに注意が必要なのは、消費者物価には、企業物価と違い、物だけではなく、サービス価格が含まれていることだ。サービス価格は原油など資源価格や円安の影響を受けづらい。

   一方で、企業は原油など資源価格の上昇によるコスト増を人件費の削減などでカバーしようとする。あるいは、消費者物価の上昇段階では、値上げ幅を抑えるために人件費の削減を行おうとする。

   こうした動きは、コロナ禍にあって、雇用が不安定なうえに賃金の上昇が滞っている状況の中で、新たな雇用不安を生み出す可能性があるということだ。

   こうした賃金が上昇しない、雇用が不安定な中での「悪い物価上昇」は始まったばかりなのだ。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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