総会をめぐる混乱が「致命傷」だった
総会をめぐる混乱は、いわば「致命傷」だった。21年6月の定時株主総会で取締役会議長だった永山治氏(中外製薬名誉会長)らの再任案が否決され、物言う株主との協議を経て就いた社外取締役が現在は半数を占めている。こうした社外取締役が関与して今回の3分割計画が決まった。
この経営計画は、物言う株主などから問題視されてきた「コングロマリットディスカウント」の解消を目指すものだ。今回分割する事業群は、それぞれ投資規模、経営判断のスピードが異なる。たとえば長期的な契約が多いインフラ関係に対し、半導体は好不況の波が大きく、儲かったと思ったら翌年は価格急落で大赤字になるといったことが珍しくない。ある事業が赤字の時は他の事業の利益で支え、全体としてそこそこの業績をキープできるのが「総合電機」のメリットだ。
一方、全体のバランスを求められるために意思決定が遅れがちになり、投資家にとっても事業内容を理解しづらく、株価が割安な状態になりかねないと指摘される。
異なる事業間でシナジー(相乗)効果が働き、それぞれの事業に大きなプラスがあればいいが、そうでなければデメリットが大きくなる。そこで、事業ごとに分割し、それぞれが担う領域をシンプルにして意思決定を早めれば、3社の業績は向上し、株価も上がり、株式時価総額の合計は単独で上場している今よりも高められる――とソロバンを弾いたのが今回の3分割計画というわけだ。
記者会見で綱川氏は「(東芝の)ブランドにこだわっていない。わかりやすい企業の形で経営することで、業績を上げられる」と述べ、「解体」との指摘にも「未来に向けた進化だ」と反論した。
この計画で一件落着、東芝は再生に向かって進むのか。
計画は物言う株主を意識してまとめられたが、じつは不満の声が強いという。分割後の成長の道筋が十分示されておらず、不採算の部門や生産拠点のリストラなどへの説明もない。また、経営危機の中で混乱してきたガバナンスをどのように正常化していくかも明確ではないことなどが指摘される。
なにより、物言う株主は長く経営にかかわる場合もあるが、基本的に短期で企業価値を上げ、売却するのが望みだ。その選択肢として非上場化を期待する株主も多い。要は、新たに東芝を買収するファンドなどに高値で買い取ってもらいたいということだ。実際、車谷社長時代の21年春、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが非上場化を提案したことで株価が3000円台から5000円レベルに急騰した。車谷氏の辞任で、この話は立ち消えになり、現状で東芝丸ごとを、大株主が望むような高値で買う投資家は見当たらないといわれる。
このため、上場を維持したまま、株価上昇(時価総額の増大)のストーリーとして3分割という絵を描いたと、関係者は指摘する。
分割案を諮る株主総会に向け、成長戦略を肉付けし、株主の理解を得ていくのは簡単ではなさそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)