大阪府や兵庫県を地盤とする東証1部上場の「関西スーパーマーケット」を巡る争奪戦が新たな段階に入った。
一たんは、臨時株主総会で関西地盤の流通大手エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングとの統合が可決され、一件落着かと思われたが、別に買収に名乗りを上げていた首都圏地盤の食品スーパー、オーケーが裁判所に統合の差し止めを求める仮処分を申請。臨時株主総会の運営を巡って、司法の判断を仰ぐ異例の展開に発展した。
3分の2をわずかにクリアする薄氷の可決
関西スーパーをめぐる騒動勃発についてはJ-CASTニュース会社ウォッチは「『関西スーパー』争奪戦 『地域密着型』のH2Oか、成長へ関西進出のオーケーか!?」(2021年9月15日付)(埋込リンク:https://www.j-cast.com/kaisha/2021/09/15420104.html)で詳報したが、その決着を図る問題の臨時株主総会が2021年10月29日、関西スーパーの本社がある兵庫県伊丹市で開かれた。
議案は会社側が提案したH2Oとの統合案。具体的には、関西スーパーがH2Oの傘下に入り、H2Oの子会社である食品スーパーのイズミヤ、阪急オアシスと統合するという案だ。実現すれば、現在の関西スーパーの株主は、関西スーパーを含むH2O傘下スーパー3社の新設する統合会社「関西フードマーケット」の株主に自動的になる。
事前の票読みでは、可決に必要な「出席株主の議決権の3分の2以上の賛成」を確保できるかどうか見方が拮抗していた。関西スーパー株式の約7%を保有するオーケーが、臨時株主総会で統合案が否決された場合、関西スーパー株を上場来高値である1株2250円で株式公開買い付け(TOB)する意向を表明していたからだ。
H2Oとの統合案では新統合会社の成長力が未知数で、総会では「なぜ業績の悪いイズミヤや阪急オアシスと一緒になるのか」といった質問が相次いだ。関西スーパーの株主にはオーケーとも取引がある卸業者や食品メーカーも多く、難しい判断を迫られていた。
臨時株主総会で議決を集計した結果、「統合案の賛成は66.68%」と発表された。3分の2をわずかにクリアする薄氷の可決だった。結果を受け、総会に株主として出席していたオーケーの二宮涼太郎社長は買収提案の取り下げを表明し、関西スーパー争奪戦は終結......のはずだった。
多くの謎が残る「可決」の経緯
事態が急転したのは2021年11月9日。オーケーが「本来否決だった議案が可決と処理された疑義がある」として、関西スーパーのH2Oとの統合の差し止めを求めて神戸地裁に仮処分を申請したのだ。
臨時株主総会には裁判所が選任した検査役(弁護士)が立ち会っており、検査役が11月5日に裁判所に提出した報告書が、舞台裏で起きていた出来事を明らかにした。じつは、臨時株主総会の日の14時50分過ぎ、総会の担当者が検査役に対して、統合案の賛成比率は65.71%で「否決だった」と報告していた。
ところが、その直後に総会の休憩を延長するとアナウンスがあり、休憩中に1人の株主が「棄権で投票したが賛成のつもりだった」といった旨を総会の運営担当者に申し出た。ここで異例なのは、事前に賛成の議決権を行使していたことなどを理由に、「棄権」で集計していたこの株主の議決権を「賛成」に変更して再集計してしまった。
この結果、16時10分ごろに総会は再開され、僅差の可決が報告された。検査役に報告するぐらいだから、最終結論でもおかしくないはずだが、なぜ休憩を延長したのか。投票を締め切った後に株主の判断を変更できるのか。1%近い議決権を持つ株主とは何者なのか。多くの謎を残す経緯だ。
同様のケースで変更を認めた判例があり、関西スーパー側が有利との見方もあるが、予断を許さない。
(ジャーナリスト 済田経夫)