凸版印刷の株価が2021年11月11日、一時前日終値比178円(10.0%)高の1965円まで上昇した。前日取引終了後に22年3月期の連結業績予想を上方修正したことが歓迎され、買いが集まった。
同時に、持ち株会社制に移行し、上場子会社トッパン・フォームズを完全子会社するといった組織再編も発表。紙に印刷する従来の主力業務からデジタル関連事業にシフトしつつある姿を投資家が好感した。11月16日の株価は、前日比32円安の1958円。
祖業「紙の印刷業務」からの多角化で成果
それでは、上方修正の内容を確認しよう。売上高は従来予想より500億円多い1兆5000億円(前期比2.3%増)、営業利益80億円多い600億円(2.1%増)、最終利益は50億円多い360億円(56.1%減)。最終利益については、米国包装材メーカーの買収費用がかさむといった一時的な要因が影響する。
一方、営業利益は従来予想が前期比11.5%減だったが、上方修正によって増益に転じる。この「減益が一転して増益」は投資家の注目を集めやすい記号のようなものでもあり、株価を押し上げる直接の要因になった。
11月11日の株価は当日安値が前日高値を80円上回り、チャート図が大きく「窓をあける」姿を描く節目の展開となった。
業績の上方修正の理由について凸版印刷は、企業や自治体から間接業務を請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が「想定以上に増加」、半導体の電子回路の原板となるフォトマスクやTFT液晶(液晶ディスプレーの一種)の「順調な拡大が継続」、建装材の「堅調な拡大」を挙げた。いずれも旧大蔵省印刷局の技師らが1900年に会社を設立した際の祖業である「紙の印刷業務」からの多角化の成果であり、投資家の好感を呼んだ。
持ち株会社制へ移行、上場子会社を非上場・子会社化
組織再編も好印象を与えた。まず、ATM(現金自動預払機)の利用明細書や宅配便の送り状などの「ビジネス帳票」などを手がける子会社、トッパン・フォームズ(唯一の上場子会社)を、TOB(株式の公開買い付け)によって2022年3月までに完全子会社化する。
現在60.74%を保有しており、残りの株式を約675億円かけて取得する。重複投資を避け、効率的に運営するためだ。
さらに、2023年10月をメドに持ち株会社体制に移行することを基本方針とし、23年6月の定時株主総会に関連議案を提案する、とした。一方、フォトマスク事業は分社し、投資ファンドの出資を受ける。これは半導体需要の変化に機敏に対応できるようにする狙いだ。
SMBC日興証券は11月10日発行のリポートで、「ガバナンス強化が実行力を伴う形で出現してきていると考える」と評価した。
凸版印刷は21年4月から断続的に、タレントの大泉洋さんを起用した印象的なテレビCMで印刷だけではなく、さまざまな領域で課題解決を手がけていることをアピールしている。今回の組織再編はそうした課題解決を的確に遂行する手段ということなのだろう。
また、持ち株会社化したアサヒビールが、アサヒグループホールディングスの社名から「ビール」の祖業を除いたように、凸版印刷も恐らく「印刷」が消えるのではないかとみられる。祖業からの脱皮が遅れているかつての名門企業には見習うべき点が多いと言えそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)