「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
「週刊エコノミスト」(2021年11月23日号)の特集は、「日本を直撃 円安原油高」だ。欧州の電力危機を発端に、米国や中国、日本などさまざまな地域でエネルギー逼迫が露呈した。このまま原油やガス、LNG(液化天然ガス)の価格高騰が続けば、コロナ禍から脱出しつつある世界経済を揺るがす事態になりかねないと警鐘を鳴らしている。
日本を直撃する円安、原油高
欧州は「カーボンニュートラル」を世界的にけん引する地域だ。欧州連合(EU)における総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は38%にのぼる。しかし、今夏は天候に恵まれず、風力など発電量が大きく落ちた。
その結果、天然ガス価格が高騰。指標の一つである「オランダTTF」は、1年前の1メガワット時当たり15ユーロから一時120ユーロまで上昇した。この煽りを受けて、本来連動しないはずのLNG価格も上昇。北アジア向けスポット(随時契約)LNGの指標であるJKM(ジャパン・コリア・マーカー)は、100万BTU(英国熱量単位)当たり6ドルから50ドル超に上昇し、足元でも30ドル前後に高止まりしている。50ドルという価格は、原油換算で1バレル=約290ドルにも相当する。
アメリカでは8月末の大型ハリケーンにより、メキシコ湾沿岸の石油・天然ガス関連施設が大規模に操業停止を余儀なくされた。中国では9月以降、各地で停電が頻発。石炭不足が原因と見られるが、スポットのLNG市場で「爆買い」を始めるなど、世界的な争奪戦が、欧州に前代未聞の電力危機を引き起こした。
エネルギーの大半を輸入に頼る日本への影響は大きい。ドル・円相場は1ドル=113円前後(11月9日現在)で推移しており、さらに円安が進むことになれば、海外からの調達価格が上がり、企業収益は大きく圧迫される。
原油高、ガス高、円安の「三重苦」の状況が続けば、日本経済に大打撃になるのは間違いない、と編集部レポートは結んでいる。
原油高について、芥田知至氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)が、産油国が大幅増産を見送ったことで、原油価格の高騰は簡単には止まりそうにない、という見通しを報告。中長期的に産油国やエネルギー企業が必要な投資を行えなければ、脱炭素社会が到来する前にエネルギー危機の時代に陥るリスクがあると警告している。
通貨安と原油高について、山口阪大氏(オックスフォード・エコノミクス シニア・エコノミスト)は、インフレ期待の高まりを受けて、利上げを模索する欧米主要国に対して、まったく見通せない日本円は下落。国際商品高が日本をむしばむ、と見ている。
エネルギー関連業種などの一部を除けば、企業がコスト増分をそのまま製品価格に転嫁することは困難と見られ、企業収益の悪化が懸念されると予測している。
最新の大学入試事情 中堅大学が「上級大学」に
「週刊ダイヤモンド」(2021年11月20日号)は、「日東駒専 産近甲龍 入試就職序列」と題して、中堅大学が「上級大学」にステップアップしつつある、最新の大学入試事情をレポートしている。
「日東駒専」とは、日本大学・東洋大学・駒沢大学、「産近甲龍」とは、京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学を指す略語だ。本格的な大学全入時代に入り、これらの大学は「学歴」として成立する大学のボーダーラインになると予想する予備校関係者もいるという。
これら中堅私大の難易度の変遷を過去29年間の全学部の偏差値の変化で追っている。20年前に比べると日東駒専は難化傾向にあるという。関西の産近甲龍では、トップだった京都産業大学が下落、近畿大学が末席からトップに躍り出たのが特徴だ。
就職編では、中堅私大の過去10年間の「実就職率」と「主要400社実就職率」を掲載している。日東駒専で過去10年間、ほぼトップの座を守っているのは東洋大学だ。2位は前半5年間は日本大学、後半5年間は専修大学が逆転成功という構図になっている。
実就職率では、日東駒専とMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)に大きな開きはない。しかし、主要400社で見ると、両者には「10%の壁」ともいうべき、圧倒的な差があるという。法政が10%台後半から20%台前半で推移しているのに対して、日東駒専で10%を超えたのは、16年度の駒沢だけだ。
そもそも大企業に挑戦しようとする学生が少ないことを指摘している。西の産近甲龍では構図が変わる。甲南が10%を超える年も珍しくなく、就職での強さが光る。
10%未満とはいえ、日本銀行や総合商社、大手マスコミに採用者を出した大学もあり、中堅私大から大手企業へのチャレンジも可能なことがわかる。
こうした中で、理事背任事件が日大に落とす影も指摘している。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が、日大ブランドと入試に大ダメージは必至だとレポートしている。
2018年に日大を舞台にアメフト部の反則タックル騒動が起こった。19年度入試では日東駒専の中で日大だけが志願者数を減らし、前年度から約1.5万人もの減少となった。今回の巨額背任事件では、アメフト騒動における加害選手を恫喝したとして、当時理事と株式会社日本大学事業部の事業企画部長をそれぞれ辞任した井ノ口忠男容疑者がその後復帰し、昇進しているなど、田中英壽理事長の任命責任が問われている。
石渡氏は「田中理事長以下、日大幹部諸氏が大学と学生の名誉を守るには組織の解体的出直しが必要だろう」と書いている。
世界史と日本史を結び付けて学ぶ
「週刊東洋経済」(2021年11月20日号)の特集は、「学び直しの『近現代史』」。来年春、高校の必修科目「歴史総合」がスタートする。世界史と日本史を結び付けて近現代史を学ぶのが特徴だ。グローバルな視点で歴史を理解することの重要性を説いている。
「世界史A」と「日本史A」を融合した「歴史総合」は、必修科目になる。その特徴は「近現代史」に絞り、近代化、国際秩序の変化や大衆化、グローバル化という3つの大きな枠組みを大項目にしていることだ。
人気ユーチューバー講師のムンディ(山崎圭一)氏が、教科書を読み解き、中国の近代化と日本の近代化を例に解説している。たとえば、中国のアヘン戦争、アロー戦争と日本へのペリー来航と改革、中国の太平天国の乱、洋務運動と日本の大政奉還・明治維新と自由民権運動がそれぞれ対比して記述されている。そして両国は日清戦争へと突入する。
また、世界の中での日本経済を学ぶというのも「グローバル化」の一例だ。日本の高度経済成長とドルショックやオイルショック、プラザ合意、バブル経済といった経済的な動きと、世界の動きとを並行的に扱っている。
「世界の事情を理解しつつ、日本の歴史を理解する」構成を評価しているが、教科書の分量が多いため、「詰め込み授業」が行われる可能性もあり、指導法が確立するまで、試行錯誤があるだろうと見ている。
ノンフィクション作家の保坂正康氏のインタビューも興味深い。「日本の近代史は14年周期で動いている」と指摘している。明確な理由は説明できないが、結果としてそうなっているという。
「日本人はとにかく一生懸命に目標に向かって走り続ける。そして、短期間で目標に達する。換言すれば、よいことも批判に値することも単位間でやってのける国民性ではないか。それで14~15年続けていると、内外でさまざまな事態が起きて別の局面に移る」という仮説を披露している。
その中でも特筆されるのが5.15事件だとしており、ファシズム体制確立の出発点になった、としている。今回のコロナ禍との共通性を感じるのは、可視化できる原因と結果について、時に感情ばかりを前面に出し、理性や知性とは無縁の態度を取ってしまうことだ、と指摘している。
「世界と日本の近現代史がわかる60冊」というブックガイドも重宝だ。「明治維新の意味」(北岡伸一著、新潮選書)、「日米戦争と戦後日本」(五百旗頭真著、講談社学術文庫)、「独ソ戦」(大木毅著、岩波新書)など、定評のある本を紹介している。
明治維新の死者が極めて少なかった理由を説明した、東京大学名誉教授の三谷博氏の「危機に備えた指導者たち」、日露戦争の勝因を鉄道利用に長けた日本と考える、慶応大学名誉教授の横手慎二氏らの寄稿も新鮮だ。
経済やビジネス以外のテーマを特集とする最近の「週刊東洋経済」は、じっくり読ませ、考えさせる内容が多い。今週号も保存版にふさわしい出来上がりになっている(渡辺淳悦)